第36話 就活中女子大生とシゴデキ美人
『ただいまです』
俺は清水さんに向けてメッセージを送る。
直ぐに既読が付いて、数分した後に返信が来た。
『おかえり。今日何食べたの?』
俺は『お刺身です。お刺身を食べに行ってきました』と再度メッセージを送る。それから『お刺身、良いね』と返ってきて。
「…………」
メッセージのやり取りが途切れた。
これで会話が終わりなんだろうか。俺はアプリを落とそうとした瞬間に通話が掛かってきた。
「はい、もしもし?」
『メッセージ、難しくない?』
清水さんは開口一番に言う。
「そうですね」
『こう……年齢差あると、どのくらいならウザがられないかとか。これは聞いて良い事なのか、とか』
顔見えないから触れて良いかどうかも探れないし、と困惑してるのがよくわかる声色で話してる。
「あ、あー……」
何となく分かるような。
確かに、メッセージでも色々考えるかも。
「業務的な事から始めてみるのが良いんじゃないですかね?」
と言うか、俺も鷲尾さんとやりとりするのは基本業務的な連絡とかくらい。会って話すからそこまで必要性を感じなかったし。何だったら通話するし。
『例えば?』
「『レッスン、何時からだっけ?』とかの確認とかなら問題ない範囲じゃないですか?」
『おお! それはなかなかやり易そう。他に何かある?』
「うーん……レッスン風景を動画にして送ったりとか?」
『うんうん! 私にも出来そうじゃん!』
ハードルが下がっていってるのか、逆に清水さんのテンションが上がってる。
「あ、あとは差し入れとか持ってくとかの連絡もレッスンならアリじゃないですかね」
『良いね。よし今度からそれやっていこう』
そんな話をしていると姉ちゃんが風呂から上がったらしく。
「奈月ー、お風呂上がったよー」
と、脱衣所から出てきた姉ちゃんが言ってくる。
『え、奈月くんって……』
「姉ちゃんですよ」
『あ、お姉さん。いやぁ、最近の高校生って進化してるって聞いてたから』
「そんなに目まぐるしいですか、時代の変化」
『えー、だって。最近は小学生からスマホ持ってるって聞いたりするよ? 私の時なんて中学生でも持ってなかったのに。もう進化だよ、進化』
そうやって話してると姉ちゃんが俺の直ぐ隣に来て、膝に手を付いて顔を寄せてくる。
「今話してるのって、鷲尾さん?」
俺は首を横に振って「違う人」と答える。
「ちょっと話してみる?」
『へ?』
電話口から聞こえたそんな声に、姉ちゃんの「は?」と言う声が重なった。
「いやいや迷惑でしょ。こんな時間に」
「大丈夫だと思う。掛けてきたのこの人だから」
俺は清水さんに「どうでしょうか? 姉ちゃんなら俺と鷲尾さんとも違う何かが得られるかもしれませんし」と確認してみる。
『……フッ。まあ、話してみようかな』
私のトークスキルは一朝一夕でどうにかなるものじゃないけど、と謎の上から目線を発揮していたけど、了承したみたいだからスピーカーモードにしてみる。
「あ、あのー、もしもし。奈月の姉の胡桃です。夜遅くに申し訳ございません」
『あ、お世話になっております。私、清水累と申します。この度はお話しの機会を頂きまして、誠にありがとうございます』
俺の目の前で、就活中女子大生と出来る風美人の堅苦しい挨拶が交わされた。
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