第34話 ドS教師鷲尾

 オフィスカフェを後にして、小さな公園で俺たちは話していた。

 

「清水さんって友達居ないんですか?」

 

 清水さんが胸を押さえて踞った。

 そして俺も鷲尾さんの指摘に思わず、顔を歪めてしまった。何という鋭い一撃を放つのか。


「な、何て事を! そ、それでも元教職ですか!? ちゃんと道徳学んでくださいよ!」

 

 俺は落ち込んで肩をガックリ落とし、膝から崩れ落ちてしまった清水さんに駆け寄ってから、鷲尾さんを睨みつけた。

 

「僕はなるべく優しめの女子高生のシチュエーションをやってあげてるのに……」

 

 清水さんは「あ、え、あ……じゃ、じゃあ」と話題に困った様な反応を何度も見せていた。

 

「な、奈月くん」

「ど、どうしました?」

「オタクに優しいギャル、は……私には厳しかった、よ」


 俺が抱きかかえていた清水さんの身体からダラリと力が抜けた。


「清水さーん!?」

 

 確かに、アレは側から見ればオタクに優しいギャルムーブだった。だったけども。


「────はい、これどうぞ」


 清水さんが、鷲尾さんから差し出されたミネラルウォーターを受け取る。清水さんは水を飲んだことで落ち着きを取り戻したのか、話し出す。

 

「最近の女子高生はアニメも大丈夫なのは分かったんだけどね」


 でも、と清水さんが言う。


「どこまでいっていいのかが分からないっ」

 

 アニメ好きとアニメオタクの絶妙な境界線を判断できない。

 確かに。言われてみれば俺も分からない。

 

「それは個人差ですね」

「……なんて参考にならないんですか、鷲尾先生」

「どれだけ話し下手でも友達は一人くらいいる気はしますけど」

 

 あの、止めてください。

 鷲尾さんのその口撃は俺の方にも来てるので。

 

「……そうですね。面と向かって話すのが難しいなら最初はSNSとかメッセージアプリから始めて見るのは?」

 

 今さっきの口撃でまたしても胸を押さえていた俺と清水さんには、その提案は素晴らしいものの様に思えた。 

 俺は清水さんとアイコンタクトを交わす。


「鷲尾さん」

「……鷲尾先生」


 それから鷲尾さんを尊敬の目で見上げた。

 

「人間の心はなくても、ちゃんと歩み寄ろうとはしてるんですね」

 

 俺の言葉に同調する様に清水さんも涙を指で拭いながら、うんうんと頷く。

 

「オイ。君たちは僕の事を何だと思ってるのかなァ!」


 俺が「嗜虐趣味、サディスティック教師」と言うと、清水さんが「心無い鬼畜教師」と続ける。


「君たちも大概人の心を知った方が良いと思うけど? 今ので僕の心は傷つけられたからね?」


 とは言いながらも、本気の憤りを感じない。これが単なる言い合いだとわかり合ってるから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る