第32話 人と話すにもタイミングとかあ(ry

 たいやきママに関する話も終わり、今日の勉強も一段落。俺と鷲尾さんは帰ろうと出入り口に向かう。

 

「流石にちょっと涼しくなってきましたね」

 

 外に出て、俺が言えば「そうだね。流石にまだ夏だっては言えない季節になってきてるよね」と鷲尾さんも頷く。

 

「日が暮れるのも早くなってますよね」

「夏至はとっくに過ぎてるんだけどね。でも秋になったって感じがして、余計に感じてるんじゃないかな」

「ですかね。まあ……涼しくなったって言っても、まだ暑いですけど」

「だよね」

 

 さて、帰ろうか。

 外に出て、ビルの前を横切ろうとして、俺たちを目で追いかける女の人がいたのが視界に入ってくる。

 

「…………」

 

 俺は少し先にいる鷲尾さんの背中を人差し指で突く。

 

「うん?」

 

 振り返った鷲尾さんに分かるようにビルの窓の方を指差す。

 

「…………あ」

 

 完全に目があった。

 これはもう、忘れてましたとか言い逃れできない。無表情で俺たちを観察するかのように清水さんは見つめている。怒りに満ちているでもなく、悲しみに溢れてるわけでもない。

 コイツらどうするんだろう、という感じの目。

 

「どうします?」

「奈月くん。さっき斧田さんにも言ったじゃないか。縁を大事にしたいって」

「……そうですね」

 

 確かにそう言った。

 

「じゃあ行きますか、鷲尾さん」

「うん。分かった。逃げないから手を離してくれないかな?」

 

 俺の右手は、鷲尾さんの左腕をがっしりと掴んでいる。離すつもりはない。だって怖いモノは怖い。

 あの顔、滅茶苦茶怖いもん。

 

「鷲尾さん。俺だって縁は大事にしたいですよ」

「うん」

「だから色々な人と交流したいって思ってますけどね……でも、交流するにもタイミングとかあるじゃないですか」


 触れにくいタイミングとか。不機嫌かもって時は家族でも話がしにくいし。

 そして今回、清水さんは不機嫌かもしれない。不機嫌になってるとしたら原因は確実に俺たちだと思う。


「今は気まずいんです、わかりますよね?」

「……そりゃあ、まあ。僕も気まずい」


 鷲尾さんは窓の方を見る。

 俺もその視線の先を追った。今も、俺たちがこうして話し合ってるのを清水さんは無表情で見つめたまま。


「バッチリ見られてたからね。完全に忘れて帰ろうとしてたのを」


 俺も気づきさえしなければ、とは思ってしまったけど過ぎた事は仕方ない。


「けど、俺たちは一人じゃないです」

 

 一人だったら死を覚悟したけど、今は二人。二人なら死んでも、なんで自分だけとか思わなくて済むから。

 

「行きましょう、鷲尾さん」

 

 清水さん魔王が待つ、死地カフェへ。

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