第31話 縁を大切にね
「ああ。それね。絵ももう直ぐ完成する事だし、調整さえ終われば完成だろう? なら、その仕上げが終われば、別に会っても問題ないからね」
だから、私も誘ってみたんだ。
そう言って斧田さんが笑った。
「君たちも最初の通話の時に話してただろ? たいやきさんも動画か配信に出るとか何とか」
何かそんな事を言ったような。
ハッ、あの時もカメラを回していたんだったか。斧田さんもそれを見たんだ。だからこその提案か。
「だからそれに乗っかることにした。面白そうだし」
「いやあの、斧田さん? 僕らの意見はどうなるんですか?」
何と言うか事後承諾的な感じ。
「フム……でも鷲尾くんも悪いとは思ってないだろ?」
「…………」
無言の肯定が、ここまで分かりやすいなんて事は俺の人生ここ数年では今までなかった気もする。
そういうのを察する様な人間関係すらなかったからだけど。
「俺たちの動画なのに、たいやきママが出ても大丈夫なんですか?」
「まあ、そういう意見も出てくるには出てくるだろうけど……ウチは別にそれだけで売ってないし。何だったら君たちの展望はそういったモノとはかけ離れてる。それに、今の内にやっておいた方が一番反応がマシかもしれない」
有名になってからでは手に負えない事態になるかもしれない。
なら、最初から鷲尾さんと俺はたいやきママと絡む姿勢を見せた方がいいと言うのが斧田さんの考え方らしい。
「そう言うのを加味して、鷲尾くんも可能性は感じてるんじゃないかい?」
「まあ、そうですね」
俺と鷲尾さんでは限界があるとのこと。
例えば料理を食べた時のリアクション。審査員とかがいた方が盛り上がるとか、なんとか。バラエティ番組の賑やかしみたいな人が居れば、それだけで色々違ってくるから。
とか、どうとか。
何か俺にはよく分からないけど。
鷲尾さんと斧田さんには俺には見えてない世界が見えてるのかも。
「まあ、僕としても授業参観動画はアリよりのアリだと思ってますよ」
「断然アリじゃないか」
鷲尾さんの答えに斧田さんが失笑する。
「それで奈月くんは? たいやきさんには出てもらうかも、と言う話はしたけどね。まだ断ることも出来ないことはない」
いきなり話を振られて「ゔぇっ!?」と変な声が出てしまった。大人の話をしてるんじゃなかったんだ。なんかそう言う感じの流れだと思ったから口閉じてたんだけど。
「まあ、私たちみたいに面倒な理屈なんて考えなくていい。君にはもっと簡単に考えてほしい。別に利益がどうとかではなく、奈月くんはたいやきさんと動画を撮りたいか、どうかで」
そう言われると、俺の答えは悩む必要もない。
「……その、俺も良いと思います。たいやきママと仲良くなりたいですし」
変わってきてるんだ。
「あの。なんて言うか、俺は縁を大事にしたいんです」
ここに来て、俺の人生が確かに。
漠然とした物から、何だか一歩を踏み出した気がする。Vtuberになる事が決まって、その時の縁で転校についても考え始めて。鷲尾さんに勉強教えてもらえて。
だから意味があるとか。
そう言う話をしたいわけでもないけど。
「今、そう思ってます」
誰かとの関係に価値を見出したいとか高尚な事を願ってるわけじゃないけど。
ただ、大事にしたいと思う。理屈じゃなくて良いって言ったから、これでも良いんじゃないの。そう思って俺は斧田さんと鷲尾さんを見る。
「そうだね。僕もそう思うよ」
鷲尾さんがニコリと頰を緩めた。
「奈月くんも大丈夫みたいだ。では初回配信にはたいやきさんにも来てもらうのは決定だね」
こうして初めての動画は、授業参観動画になることが決定した。
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