第30話 累進加点制

『どうどう!? 二人とも!』

「おお、こういうので良いんだよ。こう言うので」

 

 鷲尾さんがうんうんと頷く。

 ケモミミもない、シンプルな教師と学生の絵。黒髪天パと銀髪の少年。

 

「やれば出来るじゃないか」

『ふふ。これでも絵で稼いでたりするんですよ、プロですから』

 

 と、相変わらず顔は見せないけど声だけでも嬉しそうなのがよく分かる。

 

『それで調整とかして欲しいってのはある?』

「僕はないかな、奈月くんは?」

 

 俺は首を横に振る。

 ただ、それではたいやきママに伝わらないんだったと「俺も大丈夫です」と答える。

 

「そう言えばケモミミのオプションってどうなったんですか?」

 

 オプションにするなら良いんじゃないかなみたいなことは言ったはずだけど。

 

『あるよ、あるある! 見たい? 見たいよね!』

 

 テンションが上がったたいやきママは、画面を共有してケモミミバージョンと書かれたファイルを開いた。

 

『はあ。もう我ながら、最っ高……是非使ってね!』

「……前向きに検討しようと思います」

 

 俺がそう答えると鷲尾さんが「奈月くん。もし、たいやきさんから『使って使って』って強要されても、僕はノータッチだからね」と耳打ちしてくる。

 

『そだ。もう一個伝えとかないとね。これは斧田さんにも納得してもらってるし、完全に私の好みが入ってるけど』

「たいやきさんの好みが入ってない事がそこまであったかな?」

 

 鷲尾さんのツッコミをスルーしてたいやきママが話を続けた。

 

『こう言う差分もあるんだよね』

 

 と、ケモミミファイルを閉じて、今度はエプロンと書かれたファイルを開く。

 

『二人とも、料理とかもやるんだって?』

 

 多分、斧田さんが伝えたんだろう。

 

『奈月くんが提案してくれた差分の話してたら「エプロンはどうかな」って持ちかけられて、電流が走ったんだよね。制服×エプロンとか最強シチュじゃんね!』

「確かにこれは使いやすそうですよね。ね、鷲尾さん」

 

 俺が鷲尾さんの方に振り返ると、鷲尾さんもこれに関してはそこまで悪いとは思ってないらしい。

 

『それに、学生服だけじゃなくて、ワイシャツエプロンにも需要あるだろうしね』

 

 言い方が少し雑に思ったのは俺だけじゃないのか。というか、鷲尾さんが当人だから余計に感じたのかも。

 

「なんか僕の方適当じゃない、その言い方」

『二十代前半まではストライクゾーンですけど、流石に制服エプロンには敵わんって。もう描いててそう思ったんですよね。百二十対九十五点で、奈月くんの制服エプロンの勝ちでーす!』

「点数が限界突破してるんだけど、その二十点はなんなのか聞いても?」

『まず制服、男の娘の時点で百点。最高。そこにエプロン。最高。最高オブ最高。もう最高すぎですね、本当』

「……因みに僕の九十五点は」

『まあ、普通に九十点ですよね。そこにエプロンで五点加点です、はい』

「エプロンの加点差デカすぎるだろ!」

 

 鷲尾さんのツッコミも段々と馴染んできた様な。

 

『加点は累進加点制なんです〜!』

 

 たいやきママは相変わらず、ちょっと変だ。

 

「取り敢えず調整の事に話戻しますけど……エプロンは斧田さんからの提案らしいですし、取り敢えず僕からはさっきも言った通りないですね」

 

 調整に関する注文はない事を鷲尾さんが伝えると、たいやきママが『奈月くんもこれで大丈夫?』と聞いてくる。

 

「はい、大丈夫です。今から凄いワクワクしてますよ」

 

 この絵が、動くのが。

 俺の隣でも笑い声が聞こえた。

 

『────私も二人に会えるの今から楽しみだよ』

 

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