第28話 清水累(先輩)は高校生を知りたい
濁った目をした彼女は
この事務所に所属している中でも、トップレベルの知名度のVtuberだった。俺も知ってる名前だったし。
「……それで、君」
「あ、はい」
俺の足も復活した、流石に。
「高校生の会話が相槌打っとけば何とかなるって本当?」
「はい」
「私が無理に会話とかお題を出すとかしなくても良いって本当?」
「多分大丈夫です、はい」
何か隣の鷲尾さんから凄い視線を感じる。
「何か面白いこと話さないといけないとか、そう言うのない?」
「いや、高校生の日常会話に芸人レベルのハードル求められても……」
少なくとも、日常会話なんて内輪ネタの極みじゃないかな。いや、俺は知らんけど。引きこもりで同い年との会話を全然してないから。でも、こうするしかなかったんだよ。
引きこもりなのを隠すにはこれが一番だったんだ。
「…………仕方なかったんだよ」
「今、なんか言った?」
「いえ、何も」
俺は気になって「と言うか、普段どんな感じに話しかけたりしてるんですか」と聞いてみる。
「どんな感じ……と言っても、何話せば良いか分からないから『へい、そこのガール。一緒にお茶しなーい?』って感じで」
「…………」
「おい」
「……あ、っす」
「止めて。思い出すから。本当にこうやって誘って、時間停止物かなって錯覚しそうになってから答え返ってきたの思い出したから。え、てか、そのまんまの反応すぎてデジャヴ感じる。ヤバ、ストレスすぎて吐きそう。ゔっ……」
滅茶苦茶早口で喋り出して、段々と眉が八の字になっていく。口元も抑えてる。
「いや、すみません。マジで反応に困っちゃって」
「…………」
コホン、と咳払い。話を変えたいらしい。
「ならさ、ならさ。もう一個、聞いときたいんだけど」
「はい」
「高校生の最近のブームって何? こう言う話したら盛り上がる……とかの定番ってあったりする?」
「…………」
ヤバい。
流行り廃りに疎いんだけど、俺。
ホットク知らんレベルの人間だよ、俺。
「あー、そう……ですねぇ」
いや、でもネットで見たぞ。最近はアニメを見てる人が多くなってきてるって。ドラマよりも盛り上がるかも。
「あ、アニメの話とか良いんじゃないすかね」
「お、それなら出来るかも」
鷲尾さんが割り込んでくる。
「唐突なネタ振りだけはしない方が良いと思いますよ、僕は」
「今、生高校生から情報収集してる所なんですけど……」
また目が濁った。
「こう言っちゃなんですけど、僕元教師です」
かと思えば、鷲尾さんの言葉で直ぐに目に輝きが戻る。
「ふむ……良いでしょう、参考にします。もっと聞かせてください。赤裸々に」
基本は、と鷲尾さんは口にする。
「自分から話題提供するよりも、自然とその話が出てくるのを待ってる方が話しやすいかもですね」
「ほうほう」
「いきなりネタだけ振られても『え、今のって何だったんだろう』って考えなきゃなくなりますし」
「……それじゃ基本は相槌と」
「それが良いんじゃないですかね」
何と。
あれほど怪訝な目を向けてた気がするのに、俺の意見も活かしつつ良い感じにまとめた。
「二人ともありがとう。名前聞いといて良いかな?」
鷲尾さんが名乗ったのを聞いてから、俺も「奈月です」と言えば。
「仲良くしようね、二人とも」
ニッコリと笑う。
「高校生と元教師から情報を貰えば、私以外高校生以下のグループも円滑に回るでしょう。ええ」
そんなに悩んでたんだ。
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