第26話 若さ
やば、足が上がらな……。
「こひゅっ、こ、ふっ……」
こ、これはマズイ。
息も、整わない。
「ぐはっ……!?」
脇腹に衝撃が走った。
「バテるの早くない?」
何度か、ボールの弾む音。
止まったかと思うと足音が近づいてくる。
「お、俺は……頭脳、派なん、です」
俺は仰向けに倒れたまま、脇にボールを抱えて平然と立っている鷲尾さんに言う。
「体力で負けたからってね。僕に勉強教えてもらってるから頭脳派も弱くない? 奈月くん、僕に勝ててる要素あるっけ?」
俺は「……若さですかね」と笑みを浮かべて答えれば、鷲尾さんは残念なものを見るような目を向けてくる。
「まさかドッジボールでこんなに早くダウンするとは思ってなかったよ。若さ不足なんじゃない?」
「若さって体力じゃないんですけど! 若さは若さなんですよ!」
「取り敢えず起きあがろっか」
「あ、いや……本当。今、足が小鹿みたいになってて」
俺は体勢を変えて四つん這いになるが、足が震えて立ち上がれない。力を入れようにもカクカクしてて。
「息抜きにすらなってない気がするんだけど」
「息抜きというか、息を引き取る直前と言うか……」
「若さで勝ってるって言ったのに、それで良いのか」
「運動の出来る出来ないは若さと関係ないですぅ! さっきも言いましたよね!」
四つん這いのままで俺は叫ぶ。
おかしい。身体が言う事を聞かない。昔はこんなんじゃなかったのに。
「小学生の頃は足が速いねって褒められてたのに、どうして……? マラソンでもちゃんと完走出来てたのに……なんで? 体育の時間もそれなりに出来る方だったのに」
「奈月くん、自分が運動暫くやってなかった中年みたいな事言ってるって気づいてる?」
「い、いやいや……そんな訳。俺、まだピチピチの十代なんですけど? 中年と重なる言動なんてする訳……な、い」
そんな中年と同じ事……いや、止めろ。考えるな。考えるんじゃない。
思い出すな。
母さんとか、父さんが階段の昇り降りも疲れるようになってきたとか言ってたのを考えてはいけない。昔は縄跳びとか馬跳びとか普通に出来たのに、とか言ってた事を思い出しては。
……思い、出した。
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああ!!!!」
そんな、まさか。
「お、俺は……老いてるっ」
あ、膝から力が抜ける。
「うべっ」
床にうつ伏せになってしまう。
「い、嫌だ……俺はまだ若いのに」
「いや、そんな深刻にならなくていいから。まだ若いんだし適度な運動してけばいいから」
鷲尾さんが俺の前にしゃがみ込む。ダメだ、股間しか見えない。これも筋力の無さなのか。
「鷲尾さん、俺……俺、頑張ります!」
「奈月くん」
鷲尾さんを見返す為に。
「取り敢えず、立とうか?」
「あ、それは無理です」
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