第25話 息抜きの話

 いつもの如く上半身を机に投げ出す。


「お疲れ。一旦休憩にしよっか」 

「お、おぐっ……おぁああああ」

 

 今日はコンプライアンス研修もなく、この部屋も一日空いてるらしくて勉強に集中できる。できるにしても流石にぶっ通しは無理だと思うの。

 

「慣れてきた感じかな。二時間は普通に勉強できるようになったね」

 

 その途中途中も休憩は挟んでたりするけど。そして今はお昼だ。午後三時かそれくらいに再開したとして帰りは五時か、六時くらいで良いんじゃないだろうか。

 

「取り敢えず、休憩がてらご飯にしよう」

 

 部屋を出て、斧田さんに一言かけてから昼に向かおうと事務所に立ち寄る。

 

「お、午前は終わりかな?」

 

 俺たちを見つけた斧田さんが歩み寄ってきた。

 

「そうですね。午後三時から再開するつもりで……」


 鷲尾さんが疲労してる俺の代わりに今日の日程を斧田さんに説明してくれる。


「良いよ。その話は既に奈月くんにも聞いてるし。だから元々一日空いてる部屋を貸してるんだから」

 

 そうだ、と斧田さんは話を変える。

 

「勉強の合間にも息抜きは必要だろう?」


 と言う事は、息抜きになるような事が何かあるんだろうか。この辺りで。


「今貸してる部屋の近くに大きい扉があるのは分かるかな? あそこは広い部屋になっていてね。少しは体を動かしたりも出来るから、必要なら声を掛けてくれれば貸してあげよう」

 

 俺はその言葉に魅力を感じて「早速なんですけど、戻ってきたら使っても良いですか?」と尋ねた。正直、最近はコンプラ研修と勉強とかで碌に体を動かしてない。

 いや、元々身体なんて動かしてないんだけども。

 

「夕方くらいまではダンスレッスンは入ってないから問題ない筈なんだけど、念のため事務所に来てくれるかな」

 

 との事。

 

「ダンスですか」

 

 俺の反応に「お、奈月くんも参加する?」と興味深いと言うような顔で確かめてきた。

 必要になるなら、求められるなら。

 飛び込む意志はあるんだ。だって面接で聞かれたし。それくらいの覚悟はしてる、こうしてVtuberになる事も決まってるんだし。

 

「冗談だよ。と言っても……まだ使わないにしても、そう言うレッスンは入れて良いかもしれないか。だとしてもダンスよりもボーカルだろうね」

 

 考えるような表情をし始めた斧田さんは、直ぐに顔を上げて。


「今のレッスンとかの話は忘れていい。詰め込みすぎるのも良くないだろう」


 そう言った。


「あ、はい」


 俺は取り敢えず、と返事をする。


「引き留めて悪かったね」


 斧田さんは謝罪を口にして「それじゃ。お昼、行っておいで」と俺たちを見送る。

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