第24話 転校先どうするの問題

「コンプライアンス研修はこれで終わりだね。二人ともお疲れ様」

 

 労いの言葉をかけてきた斧田さんは「と言っても、まだVtuberとしてのイラストやモーションの方ができてないから、デビューはもう少し先になる」と続けた。

 

「デビュー日の目安が決まれば、SNSで宣伝を出したり。カウントダウンを始めたりとかもしようかな。大体一ヶ月くらいかもね」

 

 因みに第二案は既に送られてきていて、俺も鷲尾さんも既に確認済み。鷲尾さんの方は第一案と特に変更点はなかった。問題は俺の方だったんだけど。

 結果的にはケモミミは基本的に無しになった。とは言ってもオプションとして作る許可は取れたらしい。

 俺がそう言ったからと言うのもあるんだろうけど。

 

「────と、そうだ。奈月くん」

 

 俺は自分を指差して首を傾げる。何かやらかしたか。いや、ダメだ。全く身に覚えがございません。

 

「鷲尾くんは一旦、外してくれるかな。これは結構プライバシーに関わる物だから」

 

 え。

 やばい、何だ。もしかして説教されるのか。

 

「……それでは失礼します」

 

 コンプライアンス研修が行われていた室内に扉が閉まる音が響くと、数秒間静寂が訪れて。

 

「さてと。奈月くん」

 

 やばい、緊張感が凄まじい。

 何だろうか。この緊張感は面接の時以来かもしれない。

 

「────学校、見つかったかい?」

 

 あ、ああ。それの事か。

 そうだった。転校する事を決めたんだから斧田さんには言わなきゃと思って、伝えてたんだった。

 

「お、あ……おお、ああ」


 言葉がでなかった。

 言葉にできなかった。

 リアルを言葉にしたくなかった、が一番正しいかもしれない。


「まあ、なかなか見つからないよね」

 

 受け入れ先の学校も見当たらない。

 と言うか探し方がわからなくて、最初にサラッとネットで調べたきり、俺自身は何もしてないのが実際。母さんも探してくれてるみたいだけども。

 

「私も探してみたんだ。それで一つ。既にウチの配信者の子も通ってる学校なんだけど、そこで生徒の受け入れが可能みたいでね」

 

 選択肢の一つにどうか、という話らしい。

 

「パンフレットの取り寄せもできるらしいから、明日明後日にでも奈月くんに渡そうと思う。それで良いかな?」

「……ありがとうございます」

 

 何と言うか、至れり尽くせり。

 現地住民じゃない母さんには限界があるし、姉ちゃんは……うん。就活中だし。転校先とか探してもらうのも気が引ける。幾ら家族って言っても。

 とは言っても、俺は俺でどう調べれば良いかも分からないし。勉強とかで疲れてるし。

 

「それで大丈夫かな。今日でコンプライアンス研修は終わったけど……」

「大丈夫です」


 そうだ、これは聞いておかないと。


「あの、コンプライアンス研修終わっても、部屋使って大丈夫ですか?」

「構わないよ。明日以降も空いている部屋を教えてあげよう」

 

 斧田さんが笑顔で「勉強、頑張ってね」と激励してくれる。

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