第20話 ラッキーの連鎖

 

 時刻は今、夕方を過ぎてる。

 今日は特に予定がなかった。


『それで奈月、アンタ学校どうする?』

 

 母さんに遅れながらもオーディションを通過したことを報告すると、最初は聞いていただけの母さんがそう切り返してきた。

 

「それは…………」


 思考の隅に追いやってた。


『別に戻ってこいとは言わないし。そっちの学校も探してはみたの』

「え?」

 

 考えてくれてたのか。

 

「……転校していいの?」

 

 本当に。

 姉ちゃんも言ってたけど、本当にそうしていいのか。姉ちゃんの憶測だけの話ではなかったらしい。

 

『逆に聞くけど、奈月は今の学校に通い続けられる?』

「…………」

 

 帰ったとして、俺はあの学校に戻れるかと言われると自信がない。居場所がなくなったから学校に行けなくなったのか、学校に行かないから居場所がないと思ってしまってるのか。どっちが先かも思い出せないけど。

 あそこに、俺の居る場所はない気がする。

 

『勉強はしなさい。じゃないと転校したくても出来なくなるから』

「はい」

『胡桃には悪いけど、アンタを押し付ける事になるかもね。その分お金は渡すつもりだけどね』

 

 母さんとはそんな話をして通話が終わる。姉ちゃんは今日はまだ帰ってきてない。俺は今度は鷲尾さんに電話をかける。

 

『もしもし、奈月くん?』

「あー、すみません。鷲尾さん」

 

 鷲尾さんは暇だったのか、すぐに電話に出てくれた。

 

『どうしたの?』

「鷲尾さんって先生だったんですよね」

 

 俺が確認をすると『……過干渉はしないんじゃなかったかな?』と若干ピリついた声を発した。

 

「え? いやいや、そうじゃないんですって!」

 

 俺は慌てて否定する。ちょっと、いやかなり怖かった。しばらく先生とかに叱られてないから身構えてしまう。

 

「……勉強、教えて欲しいなって」

『理由は聞いてもいいかな?』

「まあ色々ありまして」

『……そっか。色々か』

 

 仕方ないと言う様な息の漏れる様な笑いが聞こえた。


『色々あったんなら、話すのも大変だ』


 だから今は聞かなくていい、と鷲尾さんは言った。

 

『これからコンプライアンス研修が終わって、イラストとかあがってくれば動画撮影とか、配信とかが入ってくるだろうからさ。忙しくなると思うけど、合間合間で見てあげるよ』

 

 今の俺は恵まれてる。

 絶好の機会に、人間関係とかに。

 それがどうしてかは分かってない。ラッキーが次々に巻き起こってる。だから、今は動くチャンスなんだと思う。

 

「ありがとうございます!」

 

 Vtuberになれた事も、鷲尾さんとの出会いも。これ以上にないほど得難い物なんだろう。


 乗るしかない、このビッグウェーブに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る