第15話 オーディション終了
「魚、美味しかったですね」
「思うんだけど、海鮮ユッケ丼は割と韓国系じゃないかな」
事務所のあるビルのエレベーターに乗りながら昼の事を思い出して、俺は鷲尾さんと離していた。
「ハーフなら許しても良いんじゃないですかね。というよりも刺身が韓国風のタレに包まれてるのは、謂わば高校デビューとかみたいなものですよ」
「その理論は分からないけど」
「日本人が幾ら髪を染めても、日本人なように……」
「何となく理解できそうな範囲になったし、納得しそうになったけども」
そんな話をしていれば事務所のある階でエレベーターが止まる。
「鷲尾さん、受かったら美味い所に連れてってください」
「……はは、良いね」
「落ちたら美味いもので俺を慰めてください」
「どっちかにしない?」
鷲尾さんの提案に対する答えは保留で。カウンターの人に鷲尾さんが呼ばれた事を伝えて、しばらくすると斧田さんがやって来た。
「待ってたよ、二人とも」
鷲尾さんが「お呼びいただきありがとうございます」とお辞儀をしたのに倣って、俺も頭を下げる。
「三人で話そう」
斧田さんが歩き始めたのを見てから、俺は鷲尾さんに顔を向ける。鷲尾さんも俺の方を見てた。
取り敢えず、ついていかないと。
「動画は見させて貰ったよ。鷲尾くんの器用さも、深谷くんの……その。まあ、色々な能力が活かされた良い動画だった」
部屋に入り、椅子に座る。
斧田さんは話し始めた。
「君たちはもしウチの事務所に入った場合、どういった内容でやっていくつもりかな」
どうなんだろう。
と、俺が考えようとした瞬間に既に鷲尾さんは答えを用意していたのか。
「基本は今回提出させていただいた動画のように、と考えています」
「……というと、料理やお使いに限定になるのかな」
「いえ、そうではなく。私が一般的な人ができる事を提案し、奈月くんにチャレンジしてもらうと言った物です」
「…………良いね」
斧田さんが満足そうに笑う。
「しっかりと展望もあるみたいだ。奈月くんの成長を見守る……というのが面白そうだ。どうかな深谷くん?」
今まで俺は何も発してなかったけど、発言機会を貰ったならアピールしなければ。
「伸び代には自信あります!」
「ぷっ! はははは!」
斧田さんがゲラゲラと笑う。
「……ふふ。そうだな。君たちはオーディション通過だ」
オーディション通過。
何か、凄いしれっと言われた気がして実感が湧かない。そんな俺を知ってか知らずか、斧田さんはそのまま話を続ける。
「……と言っても、少し条件がある」
「条件?」
俺が疑問をそのまま口にすると斧田さんが頷く。
「コンプライアンス研修は当然受けてもらう。ただ、それは皆んなが通る道だ。君たちへの条件は」
基本、二人で動画撮影・配信を行う事。
「────それが条件だよ」
斧田さんが立ち上がる。慌てたように鷲尾さんが立ち上がったのを見て、俺も立ち上がる。
「これから宜しく、二人とも」
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