第14話 生存確定

「姉ちゃん、俺明日出かける」

「へー……何処に?」

「出かける……ってか、事務所に呼び出された」

 

 午後一時に来るように、との事。

 

「そうなの。まあ、私も明日は居ないから」

「へ?」

「朝からね」

「……友達と遊びに行くの?」

「違う違う」

 

 俺の質問に姉ちゃんは首を振ってから「面接。書類選考通ったから」と答える。

 

「帰りは夜になるかもだから、お昼は自分で何とかしてね。食べに行っても良いから……てか、今冷蔵庫に何もないし、レトルトもないから」

 

 ぶっちゃけ朝飯は抜いても良い。

 でも、昼飯は食べたい。せめて二食は必要。生きてるだけでも。けど冷蔵庫には何もない。母さんのように料理を作れる人もいない。俺の料理スキルは目玉焼きとかで止まってる。あとは袋麺くらい。


 俺一人では無理だ。


 そして空腹状態での炎天下は死ねる。

 俺は最後の頼みの綱。藁にも縋る思いで鷲尾さんにメッセージを送る。

 

『明日助けてください。死ぬかもしれません』

 

 と。

 すると直ぐに通話が掛かってきた。

 

『もしもし奈月くん、さっきのメッセージはどういう事かな?』

 

 少し焦ってるのか、口の回りが早い。

 

「あ、鷲尾さん」

 

 通話相手の名前を聞いて、姉ちゃんは少し不安そうな顔をした後で、呆れたような笑みを浮かべた。

 

「あの……明日俺一人なんですよ」

『大丈夫? 死なない?』

「家の冷蔵庫にも何もなくて、カップ麺もないんです」

『え……? 本当に大丈夫?』

 

 流石に俺も死にたくない。

 

「だから鷲尾さんを頼ったんです。このままだと俺は死んでしまいます」

『…………否定できない』

 

 多少迷ったのか、考えたのか。

 

「多分ですけど、鷲尾さんも事務所に呼ばれてますよね」

『一時からだね』


 ほら、やっぱり。

 一緒に動画を撮ったんだから、それはそうだろう。


「それまで暇ですか?」

『まあ暇と言えば暇だけど……』

「俺を助けると思って、何処かに食べに行きましょう。お願いします」

 

 家の中で収まるならまだしも、俺に一人で外食をする勇気はない。

 

『なら奈月くん、何か食べたいのある?』

「……美味しいのが良いです。美味しかったら何でも良いです」

『それが一番困るんだよ』

「せめて俺のハンバーグを超えてくれたら」

『だいぶハードル下がったね。というかご飯屋さんで君のハンバーグ未満を出すところは多分とっくに潰れてるよ』

「あ、でも韓国料理はしばらく良いです」

 

 なんだかんだトラウマになってる。

 キムチを見るたびこう、蘇ってくるものがあるから。あの押し売りが脳裏にこびりついてる。

 

『ああ、うん』

 

 乾いた笑いが聞こえた。

 

『美味しい魚屋があるからそこに行こう。ランチタイムはお得だし』


 何だろう。

 凄い心惹かれる。

 

「すみません、失礼しました」

『うん。明日ね。あ、じゃあ時間と場所は……そうだね。事務所最寄駅に十時半ね』

「あ、はい。わかりました」


 通話が切れた。

 俺は姉ちゃんに向き直り。


「生存確定!」

「おめでとう」

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