第12話 同情よりも、笑ってくれ

「奈月……アンタ」

 

 動画を見た姉ちゃんからは同情の目を向けられる。そんな目をするんじゃない。

 

「も、目的の物は買えてるじゃん」


 特に何かを言われたわけじゃないのに、俺は思わず反論してしまった。


「大丈夫だった?」


 俺を覗き込んで、優しく頭を撫でる。


「怖かったねぇ」

 

 その仕草も、その声も何というか小さい子供に向けるような物で。

 

「お、俺は高校生なんだけど!」


 馬鹿にされてる気がして叫んでしまう。


「奈月、アンタ……そこらへんの中学生より社会経験ないんじゃないの?」


 また、突き刺さる。


「がはっ……!」

 

 高校生が中学生よりも上であると、俺は錯覚していたらしい。中学生よりも下の高校生なんて……。

 いや、俺は高校生なのか。

 

「……相手も本当に悪意だけでやったわけでも無さそうなのがね」

 

 実際、俺の買ってきたキムチはスーパーで買う物よりも普通に美味しかったりしたわけで。


「たしかに」


 味とかに自信があって、食べて欲しくて勧めただけなのかもしれない。

 

「奈月はこの動画でいいの?」


 姉ちゃんが俺に目を合わせて聞いてくる。

 けど、俺にはよく分からなくて。


「……どっかダメだった?」


 尋ね返してしまった。


「んー……これだと同情は引けるけど、もうちょっと音楽とかでポップにした方がいいかなって。私の感想ね」

 

 エンタメに寄せた方が良いというのが姉ちゃんの考え。俺としては自分の事だから、あまり実感はないけど可哀想な奴としか見えないらしい。

 

「鷲尾さんに伝えとく」

「後は……もうなるようにしかならないでしょ」

 

 これ以上を目指すのは今はまだ厳しい。

 お使いと料理では俺と鷲尾さんの味は出せたと考えて良いだろう。常識人な鷲尾さんと、得意な事がほとんどない俺という。

 

「…………」

 

 俺は早速メッセージを送ろうとしたが、姉ちゃんに止められる。

 

「時間考えなさい。伝えるにしても九時過ぎとか、十三時過ぎてからとか」

「そっか」

「そう。普通に常識」

 

 多分、これ就活で聞いた話だな。

 とは思うけど、まあ。

 

「じゃあ、明日の朝にする」

 

 俺が立ち上がり「シャワー浴びるよ」と言えば。

 

「上がったら色々消したりとかよろしく」

 

 と、姉ちゃんに言われる。

 

「了かーい」

 

 俺はさっさと風呂に向かう。何というか、精神的に疲れた。姉ちゃんは最初、ちょっと笑ってたけど、段々としんみりした目になっていったし。

 どっちかと言われれば思いっきり笑ってくれた方が良かった。

 

「だから、ポップにって事?」

 

 何となく言いたい事は理解できた気がするような、しないような。俺にはよく分かんないけど、鷲尾さんに伝えれば。

 

「鷲尾さんは何となく分かるかも」

 

 なんて。

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