第8話 微妙すぎる料理スキル

「なんか凄い量の袋持ってるけど、ホットクに関しては一先ず置いておこっか」

 

 俺がお使いを終えると、鷲尾さんはエントランスで待っていて一緒にキッチンスタジオまで向かう。

 

「動画は撮れてる?」

「……そのまんまなので結構長いですけど」

 

 俺はスマホを右手で軽く持ち上げる。

 ちゃんと撮れてるはずだ。

 

「一回確かめて良い?」

 

 俺は鷲尾さんにも見える様にキッチンテーブルにスマホを置いて動画を再生させる。

 

『ほ、ホットケ……? 買いに行きます』

 

 おわっ。

 こうやって動画で客観的に自分の声を聞くのって慣れてないから、ぞわっとする。

 鷲尾さんはスワイプして動画を最後まで持っていく。

 

『お、重い……あ、そだ。えと、これで止めて、と』

 

 そこで動画は終わっている。

 

「大丈夫みたいだね。じゃあ、今度は料理の動画だ。材料は奈月くんがお使いしてる間に材料は買ってきたよ」

「成る程。見ても良いですか?」

「うん。ご自由に」

 

 俺はレジ袋を開く。

 挽き肉、玉ねぎ、荒っぽい粉に卵。油と塩胡椒。材料を見れば作り方は大体わかる。推測を立てられるんだ。

 母さんが作ったハンバーグを思い出すんだ。挽肉と玉ねぎ……卵とこの粉は何に使うんだろう。

 

「じゃあ、先にどうぞ」

「え? 一緒に作るんじゃないですか?」

「途中で盗み見られたら困るし」

「俺を何だと思ってるんですか」

「まあ念には念を、ね」

 

 じゃあ始めるよ、と言う声と共にカメラがオンになる。

 

「はい、どうも。僕は朔で、こちらが」

「……奈月です」

 

 自己紹介と、今回の企画の説明を鷲尾さんがスラスラと行う。

 

「今回は奈月くんのお使い企画と、僕と奈月くんでの料理企画になります。奈月くんのお使いについては後ほど。今から料理企画を始めようと思います」

 

 では奈月くん、自身のほどは。

 と言うフリに対して。

 

「まあ、何とかなると思います」

 

 ほとんど料理した事はないけど、母さんのハンバーグを食べてきたんだ。俺にだってある程度は出来るはずだ。

 

「今回のお題はハンバーグ。それでは早速、始めましょう」

 

 俺は言われた瞬間に、ボウルに挽肉をぶち込んで、まな板と玉ねぎを用意する。

 

「玉ねぎは細かく……」

 

 で、合ってるはず。

 切ったらそのまま挽肉と混ぜ合わせる。

 

「……な、何ですか?」

 

 鷲尾さんはニヤニヤしていて「何でもないよ」と答える。何でもないならその顔を止めろ。

 

「えーと、それで……ま、丸く捏ねていきます」

 

 あれ。

 全然形にならない。

 

「んっ。ほっ……は。ど、どうだ」

 

 何とか丸まった。

 俺は予め油を引いていたフライパンに慎重に乗せて焼き始める。

 しばらく待ってからひっくり返そうとした瞬間。

 

「ぬぁあああ!!?? く、崩れるぅうう!! 母さーん!? 何で何で、何でぇええ!?」

 

 思わず叫んでしまった。

 

「……で、完成?」

 

 鷲尾さんの質問に俺は「ま、まだです。最後にこの卵で目玉焼きを……」と答えながら最終工程に入る。

 

「…………」

 

 目玉焼きができるまでの間、俺は少し考え込む。この粉、結局使わなかったな。何だったんだろう。

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