第7話 弱さと言う武器
肉の焼ける音と匂いがする。
「鷲尾さんは勉強を活用したい。正直、俺としてもそれはアリだと思います」
というのも、俺は引きこもりで一般教養に疎い所もあるかもしれない。だから、俺の足りない所と鷲尾さんの武器でいい具合に噛み合うかもしれない。
そういう狙いもあって、学生であろう俺に声をかけたんだとも思う。
「内容はどうするか、ですよね」
入店した韓国料理店。
サムギョプサルの食べ方が分かんない。俺は焼ける肉を眺めて、箸を伸ばす。持ち上げて運ぼうとして「はい、ストップ」と鷲尾さんに止められた。
「……奈月くん。豚肉は切らないと」
鷲尾さんは用意されていたハサミで長い肉を食べやすいサイズにカットする。長い肉を食べるのがサムギョプサルではないのか。
「へー。何の為にハサミあるのかと思ったら肉用なんですね」
「知らなかった?」
「…………」
そういうのを食べる機会がないから分からないだけであって。覚えたなら全然問題ない。そう、次こそは。
俺は鷲尾さんがカットした豚肉を黙々と食べる。ただ鷲尾さんは俺とは違って別皿の葉っぱで肉を巻いたり、キムチを乗せたりと違う食べ方をしてる。
「…………」
鷲尾さん自身がやってるなら、と俺も真似をしてみる。下手な事にはならないはず。
「ん、おお! これがサムギョプサル!」
豚肉だけで食べるよりもこっちの方がいい。
「そうですね。これは何というか……焼肉ですね」
俺の発言に豚肉だけでなく、キムチとニンニクを網の上に乗せていく。
「……あんまり否定はしないけど、一応サムギョプサルだから」
とは言われても違いはよく分からない。
「……さっきの話だけど。僕も数学とか、社会を教えるってのも面白みがない気がするんだよね」
「教育専門なるとエンタメとしては弱くないですか?」
「そう。だから問題なんだよ……って、思ってたんだけど」
何やら鷲尾さんはネタが思い浮かんだらしい。
「奈月くん……ホットクって知ってる?」
「ホットク……それは動詞ですか?」
「放っておくじゃなくて。ホットクね。うん、絶対知らないね」
俺は食べる為に動かしていた手を止める。
「サムギョプサル食べに来たし、ここは韓国料理店多いし。まあ売ってると思うから言うけど、奈月くんにホットク買ってきてもらおっかな……ってのが第一案」
「……お使い企画ですか」
「そう言う事。これは奈月くんが元々知らないってのを武器にする事になる。それでもう一つ案があってね……」
鷲尾さんは俺と目を合わせて。
「奈月くん。料理はできる?」
鷲尾さんの確認に俺は出来るとも言わないし、首を横に振る事もしなかった。
「料理企画なら僕もある程度は対応できるよ。家庭科についてもある程度は分かるし」
お、俺だって最低限は出来るし。
「────良いですよ、どっちもやりましょう」
引きこもりだからって何も出来ないと思うなよ。ビックリさせてやる。
「バッチリ決めてやりますよ」
ホットケだか、何だか知らないけど。ちゃんと買ってくるし。料理だって美味いって唸らせてやる。
「お、いいね。ホットクの方は奈月くん一人で行ってもらうね」
「え?」
「それと、エンタメだから料理の方は周りからヒント貰ったらダメだよ」
「え?」
「お題は……そうだね。ハンバーグにしよう。材料は僕が買うとして。キッチンスタジオの許可を貰おう」
話が段々と進んでいく。
「え……あの」
「安心して良いよ。諸々は僕の方が進めるから」
お使い行った事ないよ。
ハンバーグの作り方。母さんも作ってるけど、俺は作り方覚えてない。鷲尾さんには調べるなって言われちゃったし。
どうしよ。
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