第5話 メール

 面接から一週間ほどして、俺に連絡が来た。書類選考の時と同じでメールでだ。タイトルは『Vtuberオーディション面接選考の結果について』というもの。

 内容には面接を通過したというもの。

 

「…………マジか」

 

 そして次の選考についてはまたビルに集まるように、との事で。その件について予定が空いている日時について候補をあげてほしいという内容も含まれていた。

 

「ね、姉ちゃーん!」

 

 と言っても、俺はこういう形式のメールでのやり取りについて知識なんてない。

 

「んー……どした?」

 

 今日はバイトも休みで、講義も入ってない。就活で動く事もない日なのか姉ちゃんは俺の声で目を覚ました様だ。

 

「面接、受かってた!」

「んー、良かったね……」

 

 欠伸をしながら言った姉ちゃんが、数秒ほどしてから「は?」と驚愕からか声を漏らした。

 

「マジ?」

「ほら!」

 

 俺はスマホの画面を見せる。

 

「選考結果につきまして……? 厳正なる面接選考の結果、次の選考に進んでいただきたく……本当だ」

 

 目をパチパチとさせて、ようやく処理が追いついたのか。

 

「やったじゃん!」

 

 と、肩を叩いてくる。

 

「……ま、まだなれるって決まってないけどね」

 

 俺の言葉に姉ちゃんも「あー、みたいだね」とメールの文面に目を向ける。

 

 

「それで? 嬉しくて起こしたー……ってだけじゃないのね」

「その……こう言うのに対して、どういう風に返信すれば良いのか分からなくて」

 

 生憎、そんな経験ないし。

 高校進学の時も先生が色々教えてくれたし。バイトはした事ないから分からないし。

 

「書類選考の時は?」

「……希望日時タップするだけだったし。返信不要の受付完了のメールしか来なかったから」

「なーるほど。一番最初に取り敢えず企業名書いて……」

 

 現在進行形で就活してる姉ちゃんはメールの書き方もしっかりと覚えてるらしい。俺は姉ちゃんの指示に従って返信メールを作っていく。

 

「ま、これなら大丈夫でしょ」

 

 姉ちゃんにも合格点、最低限嫌われないラインのメールにはなったらしい。今回は日程を伝えるだけだから、小難しいことを考えなくても良いのだとか。

 最初の挨拶と、最後の挨拶を忘れなければ。

 

「……送信」

 

 俺はメールを送り、ほっと胸を撫で下ろしてスマホをポケットにしまう。

 

「にしても良かったね、奈月」

「あ、うん。ありがと」

「次の選考内容は?」

 

 俺はネットで、改めて今回のVtuberオーディションの選考内容について調べてみる。ただサイトには最終選考としか載ってない。具体的な内容は書かれてない。

 

「分かんない」

 

 でも、あの人は企画力とか言ってたし。もしかしたら、そう言うのが必要な選考になるんだろうなとは考えられる。

 

「じゃあ母さんには、奈月がもうちょっとこっちに残るって連絡するから」

 

 そう言って姉ちゃんは直ぐにメッセージを送る。しばらくして電話がかかってきた。相手は。

 

「あ、もしもし母さん?」

『もしもし、奈月? 面接通ったって』

「うん」

『胡桃にお金渡すから』

「ありがとう」

『それじゃ。あんまり胡桃に迷惑かけないようにね。胡桃も就活生だから、話し相手になってあげたりもしてね』

「……俺で良いの?」

 

 こんなヒキニートに話しても何も救われない気がする。俺の言葉が響くとも限らないし。

 

『胡桃は奈月の方が気安いでしょ。じゃ、頑張ってね』

 

 それで電話が切れた。

 

「お母さん、私がメッセージ送ったのに」

 

 肩を竦める姉ちゃんはやれやれと言いたそうな顔してる。俺はなんでそんな顔してるかよく分からん。

 

「今日の昼、どうしよっか?」

 

 まだ昼には早いけど、別に考えても悪くはないだろう。

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