第4話 テレパシスト胡桃

 

「奈月、一回家に帰るの?」

 

 姉ちゃんに聞かれて俺は「まあ……うん」と答えれば、胸の前で腕を組んで。

 

「でももう一回、何かあるかもなんでしょ?」

「なんかそんな感じだったけど」

「受かったかどうかは知らないけど」

「…………」

「どうせ帰ってもする事ないでしょ? 夏休みだし」

 

 確かに。

 いや、宿題くらいはあるかもしれないけど。でも特にそう言った類のが家に届けられたって話も母さんからも父さんからも聞いてない。

 一応、学校に籍はある筈なのに。

 

「お母さんには私から連絡しとくから。結果が出るまではこっちにいた方がいいでしょ。どれくらいかかるか分からないけど。夏休みの間には何とかなるでしょ」

 

 家に帰れない。

 ゲームがない。パソコンも。俺が持ってきてるのはスマホと財布に、一日分の着替えくらいな物で。

 長期滞在する予定なんてなかったし。

 

「食費も貰うから」

「……お、俺お金持ってないですよ?」

「お母さんにね。アンタには期待してないから安心しろ」

 

 言い方酷い。

 姉ちゃんが母さんに連絡を取れば数分ほどで通話が終わる。

 

「オッケーだってさ。お金は私の口座に入れるって。着替えとか必要なものは郵送するってさ」

 

 何から何まで。

 姉ちゃんも母さんも何だってヒキニートな俺に、と思う。学生の本分全うしてないし。家に引きこもって飯だけ食べる悪性生物なのに。

 

「……俺、金稼いでないよ?」

「学生でしょ。無理にバイトしろっても言わないから。私だって高校の時はそんなもんだったし。自分で稼いだ金じゃないのに友達とカラオケとか行ってたなぁ」

 

 だから気にするな、という事らしい。

 

「東京来たなら色々見に行くのも良いんじゃない? 向こうと違ってそんなビクビクする必要もないでしょ」

「それは」

 

 そうかも、だけど。

 

「そうだ。私、明日なら暇だし東京巡りしよっか」

「あ、え……そ、そっすか」

 

 就活は、とか。面接対策は、とか。

 なんかそんな事色々思ったけど、俺からこの話を振るのはダメなのだ。流石に言われてしまったのだから俺だって学習もするよ。その程度の能力は俺にだってある。

 教養足らない俺だって。

 

「息抜き! 息抜きって大事だしね!」

 

 俺が思い浮かべたことが伝わっているのか。エスパーかな。

 

「奈月は……息抜きになるか知らないけど。まあ、これも経験って事でね」

 

 姉ちゃんも引きこもりな俺にとって外出が息抜きになるかは怪しいとは分かってるからだろう。

 

「それで何処行くの?」

「……特に考えてないけど。逆に行き────」

 

 姉ちゃんが最後まで口にしないで、飲み込んだ。

 

「────いや、うん。私が考える」

 

 姉ちゃんはやはりエスパーらしい。凄腕のテレパシストだ。

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