第2話 面接対策について
「え、アンタ……それで行く気?」
姉ちゃんの家に着いてから、俺は持ってきていた学生服にシワがつかない様に広げて部屋の中にあった物干しにかける。
「え? おかしいの? だって学生の正装じゃん」
何か間違ってるのだろうか。
「奈月が目指してるのってVtuberでしょ? 別に正装じゃなくて良いんじゃない。てか、制服の方が緊張感とんでもない事にならない?」
しかも、アンタ学校に行ってないのに。
と、とんでもない刃を突き刺してきた。
「よし。まだ時間的にやってるし服買いに行くよ」
「俺、そんなに金ないけど」
母さんに渡されたのは東京までの往復代と困った時の為の二万円。
「良いの良いの。なんか、今は金が使いたい気分だから」
「でも姉ちゃん……就活用の」
「オイその口塞げや、弟」
この手の話は禁句らしい。
「ふいまへん」
右手で頬を鷲掴みにされたままの状態で俺は謝罪を述べる。
「まあちゃんと大事に着てくれたら全然良いから」
頬を揉みながら「はい、大事にします」と言えば、姉ちゃんは玄関に向かう。
「そうだ。私の服着てくってのもアリだと思うけど」
「絶対やんない」
「……ま、つまんないか。ありきたりだし」
見た目でインパクトあってもVtuberは顔出さないから関係ないか、と言う姉ちゃんの言葉に俺もハッとする。顔が出ないのにインパクト勝負しても吉と出るか凶と出るか。
元々そんなつもりはなかったよ。
「で、どうするつもりなの?」
「どうするって?」
「まあ、服は今から買いに行くけど。面接対策してないの?」
姉ちゃんの住んでいるアパートを出て、エレベーター前。
「面接、対策……?」
「練習なしの面接ってハッキリ言って地獄だからね? 落ちて元々だとしてもさ」
実感が篭ってる。
「でもVtuberの面接は普通のとはちょっと違うかもだし、私にはどうにも出来ないから」
書類選考が通るとすら思ってなかったから、そこまでの対策をしてない。こんな舐めた態度の俺が来ても良かったのか、とは思っても通ったのは通ったのだから受ける権利くらいはある筈だという気持ちもある。
「……結果が出る前に辞退なんてしない」
それに対策不足でも。
東京に来て、そんな事をしたら空気な俺は母さんと父さんにも失望される。そうなったらもう、死ぬしかない。
見捨てられたら生きてける気しないから。
「なら良し。私も明日頑張るぞー」
「え、姉ちゃん……面接?」
「……練習。既に散々受けたけど、そもそもがダメっぽいし」
どうしよう。
就活の話を振ったら姉ちゃんは圧をかけてくるから触れにくい。
「お、お互いがんばりまひょ」
俺がそういうと姉ちゃんは何だコイツみたいな目をして、俺を見る。ちょうどエレベーターも来たみたいだ。
「私から振ったんだから今回は神経質にならなくてヨシ。そっちから振ったら────」
あ、圧が滲み出てる。
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