第12話 俺の心は

県大会の為に向かうマイクロバスの中は遠足気分でみんなリラックスしている。


当たり前のように隣に座った涼翔は今日は頑張ってくださいね、と微笑んできた。


自分の気持ちに整理はついていないもの、初めて涼翔に助けられたのは確かで、下手に悩むことは減っていた。



マイクロバスに揺られて1時間ほど、1年生達は到着するや会場準備や雑務にかられていった。



大会の時のこの気持ちは毎回新鮮だ。


緊張感のあるいつもと違う空気、競技の時間が迫ってきて会場へ向かう途中に雑務に忙しいはずの涼翔が向かってきた。


『先輩、見てますよ。頑張ってください!』

小さくガッツポーズを向けてくる。


『おう、サボり?』


『合間見つけて応援しにきたんですよ!』


少し不貞腐れたような顔になる。


『ありがと、頑張るよ』


すれ違い様に涼翔の方をポンポンと叩いて

振り向かずに会場へ向かう。


今年は涼翔がいる。自分のためだけじゃなく頑張りたいと思える。



いつもより心が落ち着いてる。


呼吸が楽だ。 


構える弓がいつもより、体と同化している。


放つ弓に迷い込まない。





個人的な結果は今までで1番良いものになった。


3年生の先輩たちは今回で引退となり、最後に今までありがとうございました、とみんなでお礼を伝えた。


大会も終わり、1年生達は1日中動き回ってヘトヘトになって座っている。


お疲れ様、と自販機で買ったジュースを2人に渡す。


『ありがとうございます!』



ふと疑問に思った質問をぶつけた。



『そーいえば、2人は仲良いいの?』


『涼翔に誕プレ貰ったり、普通に仲良いですけど・・・

基本的に紘乃先輩の話ばかりしてます』


『んっ!』 と純の肩を叩く涼翔を見て安心する。





夜は先生達の飲み会がある為、宿でゆったり自由に過ごせる。


泊まる場所は和室の大部屋、布団が人数分敷いてある。


涼翔はちゃっかりとまた、俺の隣の布団を陣取った。


修学旅行かのように、枕投げしたりみんなでテレビを見たり、トランプをして夜を過ごした。


夜も遅く、ようやくみんな眠り始めた頃に涼翔はコソコソと俺の布団に潜り込んできた。



『先輩、起きてます?』と耳元でコソコソと囁いてくる。


『なに?』 小声で返す。


『今日の先輩、かっこよかったです』



密着している涼翔の体温が伝わってくる。

涼翔に触れられると、自分の体温が上がる。


涼翔の心音が速くなってくるのが伝わってくる。いや、俺の心音なのかも分からない。


体が正直に反応して恥ずかしさで背中を向けると、涼翔は背中合わせで寝始めた。


毎回、体が反応してしまう。


アダルト動画を見る時と同じ反応なのに

全く違うもの。


今までに味わった事のない、胸の鼓動と純粋な気持ち。


もう、どうでもいい。


どうでもいいんだ。


周りの目とか、普通じゃないとか、 

そんなのは・・・


俺たち2人がよければ。


俺の体は涼翔を求めてる。

俺の心は涼翔を愛している。


そのまま眠りについた朝方


部長達みんな先に起きていて、2人で布団で寝ているのを見られてしまった。


どんだけ仲良いんだよ。といじられるも

それ以上には何もなかった。



帰りのバスで俺の方にもたれながら寝る涼翔の頭に、俺も頭をよりかけて眠った。


部活の中で、俺たちの仲の良さは当たり前の光景になっていて誰も反応しなくなっている。




3年生が引退して、俺が副部長に任命された。


文武両道がモットーの顧問、残りの1週間は勉強しろと休みになった。


帰り道に涼翔が待ち望んでたかのようにニコニコと近寄ってくる。


『先輩!急なんですけど明日から海に行きませんか? 親戚の家が海の近くなんで、お墓参りも兼ねてですけど・・』



『んーいいね! 宿題は全部終わってるし

涼翔、宿題は?』


『はい!お母さんに言っときます!』


『おう!・・・涼翔、宿題は?』


目がめちゃくちゃ泳ぐ涼翔をやれやれと思いながら夏休みの終わり際、2泊3日で海に行く事になった。



『ちゃんと宿題持ってこいよ。』

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