season2

第11話 カミングアウト


『ぼく、男の人が好きなんです。』


突然のカミングアウトに返す言葉が思いつかなかった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜



人生においてタイミングって物は良くも悪くも突然と重なる。


財布を落とした帰り道に、財布を探しながら歩いてたら電柱に頭をぶつけるとか。


財布を落としたってアクシデントの副産物で頭をぶつけるという不幸が重なる。


逆に言うとモテ期だって、よくよく話を聞くとその人が恋愛しようって行動した結果で複数の人から声がかかってくるような。


よく分からない思考に、何を考えているんだろうと自分で突っ込んだ。


目の前の現実から目を背けたいだけなのかも知れない。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




夏祭りの翌日からは休まず部活にくるようになった。


部長はこう言う時に深くは聞いてこない。


楽しくやれていればいいと笑っているだけだった。


なんでもない日常が戻ったように感じられていたが、あの一件以来少しだけ距離を感じる。


いや、俺も距離を置いてるのかも知れない。



冷静に考えれば、男同士でふざけ合って触り合ったり、見せあったり、俺はした事が無いがふざけてしている話は周りで聞いたことがある


俺が意識しすぎただけで、別になんでも無いただの生理現象なだけと言い聞かせた。



『スズ、今日帰りどこかよってく?』


花火大会以来、久しぶりに誘った。


『いいですよ。どこ寄りますか?』


笑顔ではあるが、少し空元気な返事だった。



軽くお茶でもしようと返答して、先に部室を出て自転車の前で待つ。


『・・あの、大事な話があります。』


『どーしたの?なんかあった?』


後から出てきた涼翔は神妙な面持ちをしていた。


『・・・・取り敢えず行きましょう』



駅の方に向かって、駅前のハンバーガー屋さんで注文して席で待つとすぐに商品が届いた。


何の話だろうと心がざわつくも、お互いに気にしていたあの件に関してだろうとは予想がついた。



ドリンクを一口飲んだ涼翔は、俺を見つめてを見つめて口を開いた。


『ぼく、男の人が好きなんです。』


突然のカミングアウトに返す言葉が思いつかなかった。


いや、少しはそう思っていたのかも知れない。


そんな言葉は聞きたくなかっただけで

今の関係をそのままにしておきたかった。



名前のない、2人だけの、今の関係を。



『おかしいですよね。

僕、男なのに男の人が好きなんて・・・

まだお母さんにも言ってないです。

普通に慣れるかなって思った事もありました。

でも、どうしても無理なんです。』


また泣き出すだろうと勝手に思っていたが

真剣な眼差しで淡々と心のうちを話す。


『スズは、おかしくなんかないよ。

今の時代、テレビでだって沢山出てるし』


適当な言葉が口から流れてくる。


テレビで見かける同性愛者に嫌悪感を覚える

俺はそんな世界の側の人間じゃない。



『もしかして、俺の事好きだったり?』


真剣な話や、自分の心の中が限界の時に、

おちゃらけて、明るく振る舞おうとする悪い癖が今回も出てきた。


冗談めかして聞くも、沈黙をする涼翔から目をそらす。


辞めてくれ。

そんな顔で 見ないでくれ。


俺の言葉で、涼翔の目が潤み出した。


目を擦る涼翔がトイレ行ってきます、と席をたった。


今はこの問題について考えたくない。

でも俺も、自分の気持ちに正直にならなくてはいけないのかも知れない。



トイレから戻る涼翔はいつも通りの笑顔を作り、お腹空きましたねとハンバーガーにかぶりつく。



『スズ、俺も・・っ』


まとまらない頭で全てを吐き出そうとしたり


反対側の席から体を少し前に出して、俺の唇に人差し指を当てる。



『今は何も言わないでください。


僕は先輩の事が好きです。


優しくしてくれ、かっこよくて、一緒にいると楽しくて・・・


今の関係を壊したくないです。


僕の気持ちと、本当の僕を知って欲しくて

今日話しました。


沢山葛藤しました。簡単な事じゃないんです


先輩も、整理がついた時に、


今言おうとした話をして欲しいです。』



いつも子供みたいな顔で無邪気な涼翔の目は今だけ、俺よりも年上の大人の顔に見えた。


見透かされていたのだろうか、全て。


心が軽くなったような気がした。




ハンバーガー屋を出てからはいつも通りの距離感に戻った。 


2人の少し特別な関係に名前はあるのだろうか。

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