第10話 夏祭り

暑い。


蒸し器で蒸されているような暑さで喉はカラカラに乾き、目を開く。


『あっつい・・』


上半身だけ起こしたところで、涼翔が俺の腰あたりに巻きついて寝ているのに気がついた。


暑くて脱ぎ捨てられた、涼翔のtシャツと半ズボンが足元に見える。


涼翔を力ずくでどかして、キッチンに水を飲みにいく。


ぐっすり眠っているようだ。


止まっていた部屋のエアコンをつけてスマホを見ると、まだ午前3時を回ったところだった。


部屋が冷えるまで待とうと机に腰かけ、スマホをいじっていた。


ふと、仰向けに寝相を変えた涼翔の方を見るとパンツの前が膨らんでいる。


胸が真ん中が急に押されたような感覚と共に、自分の下半身が一瞬脈打つ。


息を大きく吸って落ち着かせる


せっかく下がってきた体温がまた上がっていく。


ダメだ・・・


ダメだダメだダメだ。


頭の中で言葉を繰り返す。


思考とは裏腹に自分の下半身は反りたってくる。


呼吸が荒くなる。目が離せない。



バシッ


目を瞑って、自分の頬を思い切り引っ叩いた。


大きく深呼吸をして涼翔の下半身に布団をかけてから揺すり起こす。


『暑いからって裸で寝てると風邪引くぞ』


無造作に脱がれたtシャツと半ズボンを涼翔にほうり投げつけて『トイレ』と部屋の外に出る。


気持ちを落ち着かせる。

コップに水を入れて、部屋に戻る。


涼翔に渡すと一気にそれを飲み干した。


『暑くて起きちゃった。まだ3時過ぎ』


『・・・まだねむぃ』


服を着た涼翔がまた眠りについた。


隣に横たわり、外側を向いて寝ようと努力した。



頭が冴えて眠れない。



気持ちを整理したい。


俺はゲイじゃない。女の子が好きだ。


偏見は持たないようにしているけど、

俺が男を好きになるわけはない。


涼翔は後輩だ。


可愛い、手のかかる後輩。


ただの後輩。 


偏見はないがテレビで見るオネエタレントは苦手だ。ゲイは理解できない。


俺には縁のない世界だ。



でも涼翔の髪に自然と触れた自分がいる。


涼翔の体に見惚れていた自分がいる。


思っている事と違って体が反応してしまう。


視線が涼翔を見てしまう。


嫌だ。こんな思いはしたくない。


普通に結婚して、子供を作って、幸せな家庭を育む。


俺は普通だ。 


男を好きになるわけはない・・・





目が覚めると、頭はスッキリしていた。


何も考えないで、今を楽しもう。


夜は何を考えても不安になるから。




ぐっすり眠る涼翔をゆすり起こして、

おはよ。と声をかけて朝食の準備をした。



トーストを2枚トースターにセットして目玉焼きを二つ焼いた。


それと父親の影響で凝り始めた珈琲。


豆を電動ミルで挽いて、ペーパーをセットしたドリッパーへ粉を入れる。


88度のお湯にセットした電子ケトルで満遍なくお湯を垂らして粉を蒸らす。


30秒ほど待ってから円を書くようにお湯を注いでいく。


定量注いだら、お湯が落ち切る前にドリッパーをサーバーから外して完成。



『いい匂い・・』目をこすりながら涼翔がキッチンにやってきた。


『珈琲飲める?』


『・・・苦いですか?』苦い物を口にした時の表情を浮かべる。


『浅煎りだから、そんな苦味は強くないよ』


暑いからアイスコーヒーにしようと、サーバーに入ったコーヒーの上から氷を入れてかき混ぜる。


コップに氷を入れて、コーヒーを注いで涼翔に差し出した。



恐る恐る一口すすると

『・・・苦くないです』と驚いた顔をする。


『先輩、珈琲詳しいんですね』


『詳しいっていうか、親の趣味が自然と身についた感じかな』


リビングに朝食を運んでテレビをつけると、今日行く花火大会の中継をしていた。


『もう出店とかは出てるんだな』


時計を見ると12時目前だった。


『何時に出ようか?ご飯食べ終わったら軽く汗流してから甚兵衛に着替えるか・・・』


今日の予定を話している間、『苦くない!』

と一口飲んでは驚いた顔をする涼翔


『そんなに驚く?』


『お砂糖入れないで飲めたの初めてです』


それはよかったと、トーストをかじった。


食器を洗ってる間に先にシャワーを浴びさせて、洗濯物を回してから自分もシャワーを浴びた。


甚兵衛に着替えて夏祭りに行く準備をすすめる。


『似合ってます?ぼくどーです?』


『ん?いい感じだよ。』


玄関の鏡の前で2人で写真を撮った。



外に出ると焼ける暑さだった。


母親の使われてない黒い日傘に2人隠れながら会場までバスで向かった。


川沿いの陸地に並んだ出店の数々、会場は人の流れがあっちこっちと行き来する。


『うわぁ〜何買おうかな〜 先輩.射的!射的

やりましょ!』


テンションの高い涼翔に手を引かれ人混みをかき分ける。


あっ!と指を刺す方を見ると、射的の景品に小さなネコマル人形があった。


射的の銃をもらってネコマルに照準を合わせる涼翔、2発目、3発目と外していく。


残り1発、先輩やってくださいと銃を渡される。片手で銃を持ち、ギリギリまで手を伸ばして照準を合わせる。


『やった!』パンっと音と共に、ネコマルが後ろに落ちていった。


ありがとうございますと喜ぶ涼翔は、お好み焼き、たこ焼き、綿菓子、水ヨーヨーなど歯止めなく買って両手が塞がっていた。


『先輩!くじ引きやりましょう!』


『わんぱく坊主か!ちょっと待て。一旦どこかで休憩しよう。 』



人混みの少ない場所を探し、縁石に腰をかけてたこ焼きとお好み焼きを半分ずつ分けて食べた。


「あ、箸落としちゃった・・」


お好み焼きを食べ終えた所で箸を落とすと、

『あーん』と言いながら涼翔はたこ焼きを俺の口に近づけてくる。


ありがと、と言ってそれを口に受け入れた。



食べ終えてまた散策する。

出店のくじを引くと光るメガネが当たった。


俺がかけるとツボに入ったのか大笑いしている。


いつも以上に涼翔の笑顔が多くて、嬉しくなる。



花火の時間も近くなり河川敷に座った。



『せんぱい話があります』


『なに?』


『ぼく、せんぱいの事が・・・・・』


ヒュー バーン

カズヤが言い終わる前に花火が上がり声を打ち消した。


色鮮やかな花火がたくさん上がりカズヤが目を輝かせて見ている。


しばらくするとカズヤが俺の肩に寄りかかってきたが

同級生カップルも皆来ているため、見られたらと周りの目が気になったのでさりげなく少し離れた。


花火が打ち終わりみんながゾロゾロと帰り始める。


『カズヤ?さっきなんて言おうとしたの?』


『なんでもないです 先輩のたこ焼き食べていいですか?』


いいよと言うと美味しそうに残りを食べた。


『今日も泊まってく?明日日曜で部活ないし』


『はい!夜更かししましょ!映画一気見ですね!』


帰り道、レンタル店でSF物の映画を3本ほど借りた。



家に着くと汗やら屋台の煙やらで体がベタつく。

まずお風呂に向かい、流れでそのまま一緒に入る。


家の湯船に高校生2人は狭い。


髪と体を洗って、向かい合って湯船に浸かる。


しばらく会話をしていると、涼翔が慌ててくるっと後ろを向いて立ち上がった。


『先上がります!』


『どーした?』


のぼせそうなので、追って上がると後ろを向いて体を履いている。


『大丈夫?』


「だっ大丈夫です。ちょっとこっちこないでください」


『えっ、俺なんかした?』


体を履いたバスタオルを腰に巻きつけながらこちらも見ずに脱衣所から出て行こうとする。


思わず手を掴んでこっちを振り向かせると、涼翔の腰に巻いたバスタオルが緩んで地面に落ちた。


大きくなった涼翔の体の一部が目に入り、俺は目を背けた。


涼翔は一気に顔を赤くして、手でそれを隠した。


『ちっ、違うんです!勝手に・・』


いつもより張り上がった声を出す。



何も無かったかのように、落ちたバスタオルを手に取り涼翔に渡す。


『・・・・・・生理現象だから。体温まると勝手になるよ』



ささっと体を履いて寝巻きに着替えトイレ行ってくると先に脱衣所を後にした。




また、目を瞑って心の鼓動を整える。



焦った。


即座に反応してしまった、俺の体の一部を見せないようにと。



自然と口数が減っていた涼翔は、映画を見る時も俺にくっついてこなかった。



歩き疲れて、リビングのソファでそのまま眠ってしまった。

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