第9話 花火大会前夜【後編】

【風邪ひきました。休ませていただきます。】



それだけ、練習開始の5分前に部長に送られてきた。


【大丈夫?お見舞いいくよ?】


そう練習前に送ったLINEの返信は帰ってこなかった。



その日は彼女から午後に会おうと、メッセージが来ていた。駅前のカフェでお喋りしたり、ショッピングに付き合ったりしたが始終涼翔の事が頭から離れずにいた。



夜中になっても、返信は返ってこなかった。

追加でメッセージを送る。


【体調どう?】


今度はすぐに返事が来て、【大丈夫です】とだけ送られてきた。


文章が明らかにいつもよりそっけなく感じた。


翌日の金曜日の練習は連絡もせずに休んだ。


練習開始前にメッセージを送ったが部活が終わっても既読がついていない。


この日も彼女に遊ぼうと誘われていたが、ごめんと誘いを断る。



「涼翔、どーかしたのか?」部長が心配そうに聞いてくる。



「喧嘩しました?」と純が言ってくるが後頭部を引っ叩いた。



「すみません、明日の練習休ませてもらっていいですか? 涼翔も休ませます。」



俺のの方が仲がいいから任せると、部長に涼翔の事を任されメッセージを送る。


【明日、花火大会楽しみだな】


すぐ既読がついた。


返信が来るかと思い10分ほどヤキモキしたが返事は無かった。


返信は来ないと諦めて涼翔の家へ向かった。


こんな事は無かったと焦りながら家の前について電話をかけるもコール音が鳴るだけだった。


押しかけるまでするか迷ったが、他に連絡を取る手段が思い浮かばずインターホンを押すと涼翔のお母さんがでてきた。


『いらっしゃい、久しぶりね。スズと遊ぶ約束?」 いつも通りの笑顔で出迎えてくれた。



「あ、いえ。風邪ひいたって聞いて心配で」


「あれ?今週はお休みって聞いてあの子、宿題やるからって篭ってたけど」 


首を傾げてどういうことかしら、という顔を浮かべる。


「お邪魔します。」


何か聞かれる前に涼翔の部屋へ向かう。


「スズ・・」


2回ノックして呼びかけるも反応はない。


入るぞともう一度ノックして、ドアノブに手をかける。


「来ないでください、かえって・・・」


扉の向こうから、か弱い声が飛んできた。


「俺、何かしたかな」優しく語りかける。


「何もしてないです・・・だから帰って』


「・・・ごめん、開けるよ。」



ゆっくりと開いた扉の向こうは昼間なのに暗く、涼翔は布団の中に埋もれている。


ベットの端に腰を掛け、布団の上から涼翔を撫でると小さく、鳴き声が聞こえてきた。


布団を半分ずらして、涼翔の頭を出す。


髪を撫でながら、どうしたのか問いかける。



「先輩に彼女できたって知ったら胸が苦しくて

普通にするって頑張ったけど・・

1人になったら涙が止まらなくて・・・

先輩に大切な人ができたら

もう遊んでくれなくなるかなって・・

会う勇気なくて・・・」



涼翔の上にまたがり、上から泣いた顔を見下ろす。両手で両頬に手を当てて目を見つめ、額を触れ合わせる。



「馬鹿だなお前は・・・ 

そんなことなるわけないだろ』


涼翔はより泣き出した。上半身だけ起き上がらせて、肩を貸し泣き止むのを待っていると気づいたら眠ってしまった。


(まったくこいつは・・・)


髪を撫でて、涼翔を横に寝かせた。



【告白の件、ごめんなさい。今はそういう気分じゃなくて】


彼女にLINEを送るとすぐさま返信が来る。


【2回目のデートもいい感じだったのに。

私何かしましたか?】


さっき涼翔に投げかけた質問が、すぐ自分に帰ってくるとは思わなかった。


『何かした?』そう質問する時は、本当に何をしたのか見当がない時だ。


それもそうだ彼女は何も悪くない。


涼翔を理由に振るのは、本人に申し訳ない。 


違う。これは俺の問題だ。


涼翔のせいにしたい自分がいる。


俺は多分・・・


それ以上考えるのを辞めた。


【俺の問題だから、ごめんなさい】


そう返すと、それ以上は何も返ってこなかった。



「せんぱい? 考え事ですか?」


「あ、起きてたの? いや、なんか急に彼女に振られちゃって・・・」


涼翔はどうしたらいいのか分からない表情をしている。


「今日、俺ん家に泊まりにくる?

明日の部活休みもらったし、明日は花火大会だ」


いいんですか?と嬉しそうに布団を飛び上がり部屋を出ていく。


『ご飯だけ食べていきなってお母さんが』と涼翔は部屋に戻ってくると、さっきまでが嘘かのようにリュックに荷物を詰め始める。


トイレを借りると部屋を出て用を足すと、涼翔のお母さんがちょっとと手招きして、『ありがとう』とだけ言われた。


親は何も言わなくても分かるのだろうか、と思いながら部屋での出来事を思い出すを顔が赤くなった。



「先輩のにおいする」 


「変態かよ』


部屋に入ると即座にベットに倒れ込んだ涼翔に乗っかって戯れ合う。


両親は2人とも出張でちょうどいないので、

リビングでテレビを見たり自由に過ごせた。


さっぱりしようと風呂に入るも、家風呂に2人で浸かるには狭かった。



ベットに倒れると、急激に落ちる瞼に抵抗できなかった。


『秒で寝れる・・・』


「花火大会楽しみでなかなか寝れないです

抱きついて寝ていいですか?」


『暑くて逆に寝れないだろ」



涼翔が元に戻ってくれて本当によかった。


彼女には悪いことをしたが

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