第8話 花火大会前夜 【前編】
部活なんてやってなければ丸々1ヶ月休みになるのにと、夢のバカンス気分を想像しながらむしろ忙しくなる現実から目を背ける。
とは言え、練習自体は基本的に午前中で終わる。午後からはクラスメイトと遊んだり、涼翔と遊ぶ予定を組み込んでいた。
『今日駅前でお祭りあるんですよね。
部活終わったら一緒に行きません?」
練習前に誘われたが、今日はクラスメイトとの予定が先に入っていた為に断るも、涼翔の表情を伺う。
「ごめん、今日拓也達と行くって約束しちゃてて」
そーでしたか、とあからさまに肩を落として
練習中はずっと元気がなかった。
土曜日に大きな花火大会があるので、そっちに誘う予定をしていたが、面白いので帰りまで黙っていることにした。
だんだんとしょぼくれモードが可哀想に思えて、帰りの自転車に乗る前に誘いかける。
「スズ、次の土曜日は暇?
花火大会一緒にいこうよ。
もともとそっちに誘おうとしてたし。」
こっちも釣られるくらい、不貞腐れた顔が笑顔になる。
「やった! 行きます! 早く言ってくださいよ!甚兵衛着ていきたいです!」
「明日部活終わりに買いに行こうか」
いつもとは違い裏門を出てまた明日と別れる、涼翔の顔は少し悲しげに見えた。
拓也と女友達2人と合流してお祭りの出店を周る。
拓也に気になる女の子がいるから協力してくれと頼まれた今回のプランだったが、意中の女の子と拓也は2人で話が盛り上がっていて、残された俺たち2人で沈黙に包まれている。
2人にさせてくれと、拓也が目配せしてきた。気まずい空気に勘弁してくれよと思いながらも頑張ってこいと、背中を押した。
拓也の友達の女の子、クラスが違く見かけた事がある程度で話した事はなかった。
『ごめんなさい、緊張しちゃって。あっ私、香織って言います。佐藤香織』
『紘乃です。・・よろしくお願いします』
2人きりになった途端、話しかけてきた彼女は続ける。
『ずっと気になってて、拓也君に今回協力して貰っちゃって。紘乃君の事、ずっと好きでした』
ムードも何もない、人混みで声も聞き取りずらい、綿菓子やの出店の前で告白された。
拓也にハメられたと感づいた。ハメられたは言い方が悪いかもしれない。
拓也が告白する計画は嘘で、彼女が俺に告白しようとしていたのだ。
『ど、どうでしょうか?』
どうと言われても、ほぼ初対面で返事が出来るほど遊び慣れていない俺は返答に迷った。
『取り敢えず、お祭り廻りますか?』と手を差し出した。
涼翔との距離感に慣れてしまっていたからなのか、告白の返事もせずに彼女の手を引いてしまった。
お化け屋敷や金魚すくい、定番のお祭りデートを彼女として悪い気持ちはしなかった。
でも心の奥底でこの行為に反発している悪魔がいる。
結局、ちゃんとした返事はしていない。
拓也達とばったり合流して、手を離して以降彼女は返答について何も聞いてこなかった。
翌日の部活終わり、甚兵衛を買う為に駅の方へ向かう途中で昨日の事について聞かれた。
「昨日、楽しかったですか?」
「ん?楽しかったよ。射的とか、お化け屋敷とか」
「友達って男の人?女の人?」
「両方だよ2体2で、ダブルデート」
「え?先輩彼女いるんですか」
「いや、昨日は付き合ってるとかじゃ無かったけど・・告白されちゃって・・」
「・・・・かわいいですか?」
「まぁ・・」
「よかったですね!」
『いや、でも、・・』別に付き合ったわけじゃないと、ちゃんと言おうとしたが甚兵衛を見つけた涼翔は聞かずに走って行った。
別に悪い事をした訳では無いのに、後ろめたくて黙っていようとしたが思わず話してしまった。
気にしていないようにも見えるがその後の涼翔の笑い方は乾いたもののように感じられた。
これにしましょう、と涼翔が選んだ紺と黒の色違いの甚兵衛を購入した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日、いつも通り部室に入って準備を始めるも涼翔は部活にこなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます