第13話 ファーストキス

明日からの旅行に気持ちを弾ませながらパッキングをしていると水着が無いことに気がついた。


『ちょっと、買い物してくるわ』




気をつけてと母親の声を後に、24h営業のディスカウントストアが駅の方にあるので、大会で疲れた体に無理を言わせて自転車に乗った。

 


水着を買うついでに、明日何か欲しいものあるかなと涼翔に連絡をしていたが返信はなかった。



お店の前に自転車を停めて水着を探していると、寝てしまったのかと思っていた後ろ姿を見かけた。


『スッ・・・』 呼びかけようとして言葉が止まった。


スズと呼びかけようとしたが、男友達らしい人と2人で歩いている。


思わず見つからないように、棚に隠れて観察する。


楽しそうに歩く2人の距離感は肩が触れるほどに近い。


友達・・はそんなにいないはずだろうに 

誰なのだろうか。


なぜか胸がキュッと引き締められる。


見つからないように見守りながら水着を探していると、2人は先にお店を出ていった。


思わず外につけて行こうとした自分を、冷静な自分が引き留めた。



やばい。


これは・・・ 




家に着いてから返信がきていた。


【大丈夫そうです!

ありがとうございます✌︎('ω'✌︎ )】




翌日


『よろしくお願いします。』


『紘乃君来てくれるってすごく楽しみにしてたわよ。毎年2人で行ってたから。』


いつも通りの笑顔に出迎えられて、車に乗り込んだ。


楽しみですね、とニコニコの涼翔に旅先の話を延々とされて、昨日誰といたのか聞くタイミングを逃してしまった。


心の奥がずっとモヤモヤしている。



SAエリアで車を止めて、タバコを吸ってくる涼翔のお母さんと少し別れて外のフードエリアを周った。


ソフトクリームや串焼きなどの看板が立ち並んで食欲のそそる匂いが漂ってくる。


何か食べちゃおうかなと、キョロキョロする涼翔を呼び止めた。


『スズ・・あのさ、聞いていいのか分からないけど』


なんですか?と首を傾げる。


『昨日の夜、誰かと歩いてた?』


『・・ああ、なんで知ってるんですか?』


『ちょうど見かけて・・友達?』


涼翔は小悪魔のような笑みを見せた。


『内緒です。

もしかして、僕にヤキモチ妬いてくれてます?』


『・・っんなわけねーだろ。気になっただけだし』


結局誰といたのか教えてもらえず、モヤモヤは消えないままだった。 



長時間車に揺られてついた。


車を降りた瞬間から、蝉の合唱と流れてくる潮の匂いに包み込まれた。


民宿をやっていたという二階建ての木造の建物は、どこを見回しても昔ながらのって感じが漂っている。



昔やったゲーム『ぼくなつ2』の世界観を思い出して気持ちが高まる。


『秘密基地とか、自作ロケット作ってるお兄ちゃんとかいるかな?』


『急になんの話ですか?』


マイナーなボケが伝わらず悲しかった。



『たくさん思い出つくりましょ』



先に行く涼翔に、こっちこっちと手を招かれて少し駆け足で追いかけた。




出迎えてくれた涼翔の祖父母に挨拶をして荷物だけ玄関に置いた。


涼翔が外のジョウロに水を組んで『先輩、先に2人で行きましょう』と建物の裏側に周ると、車一台分ギリギリ通れるくらいの舗装されていない道が奥の方に続いていった。




蝉の声や野鳥の声が鳴り響く中、ジョウロを持った涼翔に手を引かれながらゆっくり進む。


急に涼翔が引いてた手を離してしゃがみ込むと、道端に咲いてる花を何本か摘んみとって束にまとめる。



また数分連れられて歩くと、狭い墓地が見えてきた。


『お父さん、2年前に亡くなっちゃったんですよね』


『えっ、あ、そうなのか・・・』


『今は先輩のおかげで毎日楽しいです』


暮石の前に着くと花を生けて手を合わせる涼翔に合わせて自分も手を合わせる。


『お父さん、なかなか来れなくてごめんね

いつも仲良くしてくれてる先輩紹介したくて。』


とだけ言った後も、手を合わせたまま何かを語りかけているようだった。



『お父さんがよろしくって』


少し悲しげな笑顔をした涼翔は、木の棒を拾って無邪気に振り回しながらきた道を戻った。



民宿の家に戻り、2階にある1部屋を涼翔と使わせてもらうことになった。


先に部屋に入ると、8畳ほどの部屋の和室だった。

ピシッと綺麗に布団が2組敷かれている。


キャリーケースを広げてスマホの充電コードや必要なものを取り出していると、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。



『先輩!今日はBBQですって!!』


ハイテンションな涼翔に連れられて、民主の庭先に連れられる。


日焼けの簡易タープと使いこまれたBBQコンロ、新鮮そうな野菜と大量の肉がテーブルの上に用意されていた。


『すごいでしょ!』と自慢げな涼翔。


『準備したのはお前じゃ無いだろ』と言うと

空腹の音が鳴り響いた。




『涼翔の先輩が来るって聞いたからな

張り切って用意しちまったよ。

遠慮せず沢山食べてな』


涼翔のお爺さんが腕を鳴らして肉を焼いていく。


『いただきます!』

その声が2人重なった。


学校での涼翔の様子などを聞かれて答えると、『楽しそうでえかった』と笑う祖父母。



食べても食べても、わんこそばの様に出てくる肉に食べ盛りといえど限界が近づいていた。



『もう、お腹いっぱい・・』


たくさん食べさせたい祖父母に何回言っても

肉を追加してきて流石に2人とも箸が止まった。


お腹を摩りながら休憩していると、今度はおばあちゃんがスイカを切ってきてくれた。



もう食べれないなと涼翔の方を見ると目が合って、思わず2人して笑ってしまった。



出されたものは食べるしかないかと、

スイカのタネをどっちが遠くに飛ばせるか競い合いながらゆっくりかじりついた。



日差しも少し落ち着いて、夕方の涼しい時間帯になった。



『お風呂沸いてるから、入っていいからね』


涼翔のおばあちゃんに言われて向かうと

銭湯の様なお風呂場で広くて綺麗だった。



部屋に戻ると、一気に眠気に襲われて布団に倒れる。



『あーもう、腹もいっぱいだし、さっぱりしたしこのまま寝るの幸せすぎる』



『一緒の布団で寝ていいですか?』


顔だけ涼翔の方に向けると悲しげな目を見えた。


『涼翔の分の布団もあるじゃん・・・

まあいいけど』


横に転がり布団の半分を開けると隣に喜んで寝転んできた。


仰向けになって2人で天井を見つめていた。


『もう、食べれませんね・・』


『だな・・・』


『明日は海いきましょうね』


『そうだな・・・』


『眠いですか?』


考えていた。今かなと。


『スズ、おれさぁ・・』


『なんですか?』


『昨日スズが誰かと歩いているのを見て、正直にヤキモチ妬いててさ。


楽しい事とかあると、1人でいる時もスズに話したいなってなる。


俺はゲイじゃないって、自分とは違う世界だって思わせようとしてた。


好きになったらいけないって・・・


でも、心に嘘つけなくて。


俺、スズが・・


涼翔が好きだ。』




体に電撃が走るって表現はまさに今


この事だろうと冷静になった。


何も言わずに涼翔は俺に馬乗りになってから


ゆっくりと顔を近づけて唇を合わせた。


優しくて、酸味のある。


胸の振動も、体温も急加速していった。

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