第5話 隠したい過去
週末のアウトレットモールは毎週家族連れやカップルで、賑わいを見せていた。
明日の日曜日、服を買いに行くのに付き合ってほしいと頼んできた涼翔は困った顔をしていた。
『高校生ならお洒落な服を持っていた方がいいってお小遣いもらったんですけど・・
どんな服買えばいいか分からなくて』
ファッションセンスがある訳では無かったが、1人で服屋さんに入る勇気が無いとめちゃくちゃお願いされた。
電車で一駅、そこからバスで30分程の所にある。移動手段は自転車が基本なので乗り慣れない公共交通機関をなんとか乗り継いで到着した。
バス停から人の流れに乗りながら入り口まで向かうと大きな看板広告が目に入る。
【観覧車この秋オープン】
興味ありげに看板をまじまじと見つめる涼翔をよそに、その下にアウトレットのパンフレットが置かれていたので手にとり良さそうな店舗の目星を付ける。
「ほら、行くぞ」
10代、20代向けのファストファッションのお店を見つけて中を散策ていると、サングラスコーナーの前で涼翔が足を止める。
どれがいいかなと物色をして『どうですか?』とサングラスをかけて、キメ顔をこちらに向けてくる。
『トップガンみたい』
『映画でしたっけ?』
普段見れない面白い顔をしていたので、すかさずスマホを向けてパシャリと1枚写真を撮った。
『あ、盗撮ですよ』と笑いながら言いながら
先輩はこれかけてくださいと別なサングラスを渡してくる。
トップガンのトムクルーズがかけているサングラスみたいなのを2人でかけてキメ顔で写真を撮った。
店内を散策して、何着か涼翔に似合いそうな服を真剣に見繕った。
『パンツは先輩が今履いてるのがいいです。』
『これ?普通のカーゴパンツだけど。ここにもあるかな』
涼翔の要望通り、同じ系統のオリーブカラーのカーゴパンツを見つけて、上は青白のストライプの長袖シャツを合わせた。
何着か試着させたが、結局最初のカーゴパンツとストライプシャツに決めた。
いつもと違う服を着た涼翔は新鮮で、大人びて見えた。
よっぽど気に入ってくれたのか、満足げな顔をしている涼翔は、白と黒の無地のtシャツも欲しいとレジに一緒に持ってお会計を済ませた。
早速着替えたいと近くのトイレに向かった涼翔を待つ間、マップでフードコートの位置を確認した。
何を食べようかなと考えながら涼翔を待つもなかなか戻ってこない。
お腹が空腹に耐えられず、涼翔の様子を見にトイレに向かった。
中に入ると、他校の制服を着たガタイのいいやんちゃそうな男子生徒が着替え終わった涼翔と話をしている。
知り合いかなと思いながら涼翔の顔を見ると
強張った表情で体が少し震えていた。
『大丈夫?』とすかさず涼翔の方に近寄るが、出会った頃に戻ったかのような小声で何かを言うも聞き取れない。
その男子生徒は俺を方を見ると『またどこかで』と涼翔に言い放ち去っていった。
去ってもなお動けずにいる涼翔の背中をさすりながらトイレを出てベンチに座らせた。
何があったのか確認したいが冷や汗をかいて
俯きながら震えている。
少し待っててと声をかけ、自販機を探して水を買って渡す。
隣に座り背中をさすりながら落ち着かせる。
前を通る人達は何かあったのかとチラリとこちらを向いて前に進んでいく。
水を一口、口にした涼翔は3回大きく鼻から息を吸って口から吐くと『すみません、大丈夫です。ただの中学の友達です。』とだけ答えた。
涼翔のお母さんは中学の時に友達を作れていなかったと言っていた。たとえ友達だったとしてもあの反応はおかしい。
どう考えても嘘だ。
そう思いながらも、ここまで動揺するような事を追求するのも逆効果だと思い『ご飯食べよっか』とフードコートに向かった。
フードコートに向かう途中、涼翔はそれ以上口を開かなかった。
『何食べる?』とフードコートで4人席がちょうど開いたので涼翔を座らせて聞くも俯いたまま喋らない。
『適当に買ってくるわ』 涼翔の好きそうなオムライスを2つ注文した。呼び札を貰い、給水所で水を持って席に戻る。
『大丈夫か?』涼翔の前に水を置いて、肩を摩った。向かいに座り俯く涼翔をどうやって立ち直らせようかと考える。
買った服について褒めたり、パンツお揃いだなと、おどけて明るく話しかけるも反応はない。出会った頃に戻ったみたいだ。
しばらく無言のまま時が流れて、自分の水を一口飲んだ。それに続いて涼翔が自分のコップの水を一気に飲み干して覚悟を決めたかのように答えた。
『せんぱいには、正直に話したい。』
同時に呼び出しのベルがなった。
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