第4話 俺はゲイじゃない。

本屋併設のレンタルショップの雑誌コーナーで、毎週欠かさず読んでいる漫画を立ち読みしていると、涼翔が早く探しましょうと待ちきれずに腕を引かれた。


ちょっと待ってと、急いで雑誌を元の所へ戻してDVDのレンタルコーナーへ向かう。


『ホラーにしましょうよ。

気になってたのあるんですよね」


『なんて映画?」


「【ニンジャVSこっくりさん】ってやつです!」


「なにそれ・・怖くなさそう

まあ、スズが見たいならそれにしよっか』



ずっとホワホワと浮かれて楽しそうにしている。



先日の涼翔が部活から抜け出した件で、帰る時に涼翔のお母さんと玄関を出た瞬間に鉢合わせしてしまった。


涼翔は嘘をつく事も、黙っている事も出来ずにお母さんに全て話したらしい。


翌日、そのお詫びに夕ご飯をご馳走させて欲しいとお母さんが言っていたと、涼翔から聞かされた。




断るのも忍びないので承諾すると、どうせなら泊まって行ってくださいと目を輝かせる涼翔に拒否できなかった。




『お菓子も買って行こうか』


いいですねと、終始楽しそうな涼翔とスーパーへと向かう俺の顔も笑みを隠せないでいた。






『お邪魔します』


涼翔の家の玄関を開けると、スタスタとエプロンをつけたお母さんが笑顔で、迎えてくれた。


『いらっしゃーい。この前はスズが迷惑かけちゃってごめんなさいね。

いつもスズがお世話になってます。


この子ったら、先輩が、先輩がって毎日・・・』


言いかけたところで顔を真っ赤にした涼翔がお母さんの背中を押して、早く戻ってと奥に連れていってしまった。



涼翔が戻ってくると、お母さんも足音を立てずに涼翔の後ろをついてくる。





「いつも先輩が、先輩がって楽しそうに話してくるのよ』 と満面の笑みを見せた。


「お母さん!!」


涼翔は恥ずかしそうに顔を赤らめている。


『ゆっくりしていってね。晩御飯、腕を振るったから』


「ありがとうございます。

いつも家のご飯は、美味しい美味しいって自慢してたんで楽しみにしてました』 と冗談混じりでお母さんに乗っかった。




「先輩っ!!」 と顔を更に真っ赤にそめた涼翔をよそに、お母さんと俺は顔を合わせて大笑いした。



笑顔の絶えない母さんを後に、早く行きますよと部屋まで腕を引っ張られる。





『先輩ご飯食べたら温泉行きましょ! お母さんが送ってくれるって!一緒に入ろ!』


とベットに腰掛ける俺に嬉しそうな顔を近づけてくる。


『いいけど、温泉は一緒に入るもんだろ』


この前の一件以来、距離感が近くなっているのは確かだ。


心を開いてくれた嬉しい気持ちに嘘はないが

この距離感に少し疑問を持つ自分もいる。



『背中洗ってあげますね』と言われ、反応に困って少し沈黙が流れた。


涼翔が、冗談ですよと続けたがその笑顔は少しひきつった笑顔だった。





『今日の練習疲れたな〜』と少し気まずい空気を打ち消そうとベットに横たわると涼翔が俺の上に跨ってくる。


『先輩!』


涼翔の両腕が俺の頭の左右にトンっと優しく突き立ち、顔を近づけてくる。


『重いよ〜 なに?』 


何も言わず涼翔は顔を下げて、俺の胸辺りに

顔をうずめる。


『先輩とお泊まりできて嬉しいです』



こんなのダメだと心の声に反して、右手が勝手に触れる涼翔の髪はとても柔らかい。


自分の心臓が怖いくらい速くなっている。


耳が外の音を拾わない。


体温が上がっている気がする。


涼翔が顔を上げ、見つめあったまま時も止まる。



思考が働かない、触れた涼翔の左頬はとても柔らかくて暖かい。






ガチャと扉の開く音と共に体温が一気に下がる。即座に振り向くと涼翔のお母さんが立っていた。




『え、あっごめんなさい。お取込み中ね 』

と扉を閉めた。



『いやいやいやいや、違います!仲良いだけです!』


『ちがうよお母さん!』 


必死に弁解しようと叫ぶともう一度扉が開き、ご飯できたわよと何も無かったかのように去って行った。




その後、食卓中も涼翔のお母さんは何も無かったかのようにしていて、心の内がとても気になったが、こちらもあれは冗談だと何も無かったかのように振る舞った。



こんなに美味しいカレーは食べた事がないと涼翔に言うと、ものすごく自慢げな顔を見せた。




4人乗りのワゴンRに乗せられ、3人で山の上にある露天風呂が有名な温泉へ連れて向かった。


『じゃああとでね〜』と笑顔で手を振られ別れる涼翔のお母さんはずっとにこやかだ。



男湯への暖簾を潜ると、カゴの入った木枠の荷物棚が並ぶも1つしか使われていないようだ。 


スーパー銭湯のような鍵付きのロッカーでは無いため少し不用心にも思ってしまったがほとんど貸切状態に少し贅沢な気分になる。


横並びに棚を使用して涼翔は脱いだものを綺麗に畳んで置いている。


几帳面な所もあるんだと思いながら、ある程度に畳んだ自分の服を棚に入れていった。




涼翔の肌はとても綺麗だ。


引き締まった体をしている。


ズボンを下ろす。


グレーのブリーフパンツを履いていた。


ズボンも綺麗に折り畳む。


最後の衣服のパンツを下ろす。


生まれた時の姿の涼翔はとても美しく見えた。



急いで、脱衣所にあるトイレに駆け込んだ。


心を落ち着かせようと必死に呼吸をする。


気づけば目線が涼翔に奪われていた。

自分はおかしくなったのかと自問する。



下半身が落ち着くまで、トイレを出られない。


5分程して、体が落ち着いた。


脱衣所に戻ると『大丈夫ですか?』と涼翔に心配された。






『先輩!背中向けて!』


『お、おう』


沈黙のやり取りは無かったかのように、涼翔は俺の背中を洗い始めた。



『頭洗いますねぇ〜かゆいところありますか〜』


シャンプーを泡立てた手で美容室の真似事をしてくる。


髪の毛が泡立ち、目を瞑っていると背中を洗い始める。


ゴシゴシと首筋から肩、左右の腕を擦って背中に移る。


『痒いところありますか?』と聞かれて、無いと首を振る。


『じゃあ前向いてください』そう言われて、流石にと戸惑った。


でも体が素直に反応した。


優しく前から首もとを擦られて、胸、腹回り、太もも、膝、足とだんだんと下へ。


意識しないようにと、心を無にしようとしたが無念にも下半身は反応してしまっていた。


シャンプーのせいで目が開けられない。


股間を手で隠しているが、足からまた上の方へと洗い直してくる。



『やめてっ』 両手を前に突き出して涼翔を突き飛ばしてしまった。



『あ、ごめん』


『大丈夫ですけど・・痛かったですか?

流しちゃいますね』


シャンプーが流れて顔をタオルで拭き取り

すかさずタオルで股間を隠す。


目を開けると大丈夫ですか?という表情でこちらを見つめる涼翔がいた。


こっちを向かれたく無いから、今度は俺の番と涼翔に向こうを向いてもらった。


涼翔の背中は小さい。


優しく、ゆっくりと首筋から背中腰回りへと洗っていく。


横腹辺りを擦っていると

『ふふすっ』とくすぐったいのか声が出ている。


『くすぐったい?大丈夫?』


大丈夫というので、調子に乗って更に脇腹を洗うと『わぁぁー』と縮こまる。


ごめんごめんと、こっちを向かせて前の方を洗う。


『先輩、ちんちん大きいですね』


ビクッと体が反応したが、股間は治っていた。


確かにカズヤはまだ成長期前なのか体も華奢で、毛もほとんど生えていない。


比べたら確かに違う。


『スズが小さいだけだ』


『え・・』


少しショックを受けた顔をしている。

体についた泡を流し切って湯船へ向かう。






『先輩!露天風呂いこ!』


たまに敬語が無くなるのは仲良くなってる証拠だと嬉しくなる。


スズに少し強引に手を引かれ歩くと、地面がスルッと滑りスズを下にのしかかる様に倒れる。


『ごめんなさい、大丈夫ですか?」


このやろうっと背後から回り、スズを抱きしめて体をグワングワン揺らす。


「うわっ、やっやめてっ」とスズが楽しそうに嫌がる。




露天風呂へ向かうと住んでる街の光が一望できた。


『綺麗ですね。一緒に見れて良かったです』


何も話さず、景色に見とれる。


広い湯船に浸かるとにスズが俺のすぐ隣に入り腕と腕が触れる。


『先輩?』


『なに?』


『・・・何でもないですっ

あがったらアイスたべましょ!』


何か言いたげだったように感じられた


ゆっくりと浸かっていたが、2人とも長風呂が出来ないタイプなのか、温度が高いせいか、10分もしないうちに限界になってしまった。



のぼせる前に湯船を出て、売店でアイス買った。アイスを選ぶスズの目がキラキラと輝いていた。




帰りの車内、後部座席に2人座ると走り出してまもなく、スズはこくり、こくりと眠りに入ってしまった。


俺の左肩を枕がわりに寝ている寝顔を横目に見ると、思わずかわいいと思ってしまった。


バックミラー越しにスズのお母さんと目が合うと話しかけてくる。


『この子の相手大変でしょ、内気で中学でも友達いないみたいだったから心配してたんだけど紘乃くんののおかげで楽しく学校行けてるみたいでよかった』


にっこりとした笑顔がバックミラー越しに見えた。



『いえいえ、俺の方こそ一緒にいて楽しませてもらってますよ。』


『そう? これからもよろしくね』



中学時代の話はまだ聞いたことがなかった。


だから仲良くなった人との距離感も分からず、近く感じてしまうのだろうか。




家に着き、揺すっても起きない。

3階の部屋まで階段を部屋までおんぶして運んだ。


ベットに転がすと目が覚めたが、ボケーと寝ぼけている。


キッチンで冷たい水をもらい飲ませると目がシャキッと冷めたらしい。映画を見ましょうと準備を始めた。




ベットに腰掛けて、肩がくっつく距離に座ってくる。シャンプー香りが香ってくる。



怖いシーンになると悲鳴をあげて怖がっているが正直俺にとっては怖く無い。


忍者の後ろにコックリさんが出てきたシーンで悲鳴をあげている。


途中から耐えられなくなったのか手で目を覆い、指の隙間から見ている。


「おいスズ・・ これ怖いか?」



忍者がコックリさんをやる平仮名の書かれた紙を手裏剣でズタズタに引き裂いて幕を閉じた。


ホラーというよりB級コメディ映画に感じた。



映画を見終わり、2人とも眠気が限界だった。


『せんぱぃおやすみ』


ベットで反対方向を向いてお互い眠りについた。



夜遅く、ガサガサと物音がして体は起こさず周りを見た。


『ごめんなさい、起こしちゃいましたか?

怖い夢見て目が覚めちゃって』


コップを持った涼翔が部屋に入ってくる音だった。


喉が乾いちゃってとコップの中身を飲み干し、机に置いてベットに入ってくる。


『怖くて寝れなそうです・・』


俺の方に顔を向けて抱き枕のように抱きついてくる。


俺は男に興味ない。

彼女だっていたし、俺は普通だ。


なのに、涼翔に触れられると脈打つ心臓が激しくなる。


頭の中で一瞬、『抱きしめ返す』の選択肢がでてきた。


違う。俺はゲイじゃない。


感情を殺して、動かず眠りにつこうと羊を数えた。


1300匹ほどまだ数えた気がする。



目を覚ますと、涼翔がちょうど部屋に入ってきた。 


スマホを見ると昼前になっていて、寝過ぎていたらしい。


涼翔のお母さんが昼食にカレーの残りで、カレーパンを作ってくれていて料理の手広さに驚いた。



昼食を食べ終えて解散して帰路に着くと、スズからメールが来ていた。


【すごく楽しかった!!またやりましょ!】



『うん!』とだけ返信をした。

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