第2話 子供みたい

校内ですれ違う涼翔はいつも1人で歩いていた。


たまに純と一緒にいる所も見かけたが基本1人で少し悲しげな顔をしている。


話しかけようと手を振ったり、呼びかけたりしたが、視野が一直線しか見てないかの如くこちらに気づかない。


1人の人間と会話が成立するのに1週間もかかるという人生で初めての経験も今の涼翔を見れば納得せざるを得ない。


自分が涼翔に好まれていなくて、話せるまでに時間がかかったのではないと少し安心している自分がいた。


キスの意味は、聞いていない。


男が男に頬だろうがキスをするのはおかしいと思う。


何の意味もない涼翔なりのコミュニケーションだと思うようにした。


それでも2人きりの時にだけに見せる笑顔、楽しそうに話す姿に自然と夢中になっていた。


今日は何を話そうかと涼翔と会うのが楽しみになっている自分もいる。




校舎の裏門でみんなと別れて、2人で自転車を押して歩く土曜日の部活終わり、最近は2人の分かれ道までは自転車を押してゆっくり話しながら帰るのが日課になっていた。



左側を歩く涼翔からキュルキュルーとお腹が鳴る音が聞こえてきたので、帰り道のコンビニに立ち寄った。


涼翔はメロンパン、俺はチーズ蒸しパンを買って、車の止まっていない駐車スペースにある逆U字型の車止めに2人並んで腰掛ける。


『スズって休みの日何してる?』


『好きなバンドの音楽聴いてたり、んー

特に何もしてないですね』


残りわずかのメロンパンをバグバグと平らげて、左上の方を見ながら悩んで答える。


『暇なら明日、日曜日だし遊びに行こうぜ』


先輩らしい事をしたくて遊びに誘った。

 

『いいですね! どこに行きますか?』


目をキラキラさせて俺の方を見てくる。


予想以上に乗り気な涼翔に驚きながらも笑みが溢れる。


『駅前のラウンドワンとか?中学生ぶりに行ってないけど』


『いいですね』とクリスマス前日の子供みたいにウキウキしているのが伝わってくる。



『明日、楽しみですね』と別れ際に言われ

笑顔で手を振り返した。





11時からの予定30分前に駅についた。元々待ち合わせは早めに行動するタイプで時間を潰すのに駅のハンバーガー屋で待ってると涼翔に連絡してオレンジジュースを注文した。


しばらくたっても返信がこず、何かあったのではと心配しながら予定の11時が経過してしまった。



『・・・おはようございます。 あれっ』


電話をかけると4コール目で繋がった。

夢の世界にまだいたようで、すぐ電話が切れて『すぐ行きます』とのメッセージが送られてきた。




元々予定より早く行くタイプではあるが、自分だけ楽しみにしていたようで少し胸に突っかかりが残るが目指すべき先輩像は優しいしっかりした先輩、そうなるために絶対怒らないと決めた。



『ごめんなさい遅れてしまって・・』



30分ほど待った所で涼翔が走ってくるのが見えた。


なんて言おうか頭の中を駆け巡らせたが、

開口一番謝ってきて寝癖も治らないままの姿に思わず吹き出してしまう。


『大丈夫、人待つの得意だから』


『変な特技ですね』


涼翔がつられて笑うと、胸の突っかかりが消えていた。



スポッチャに入場して何をしようかと店内を涼翔の後ろについて回っているとダーツやりましょうと矢を投げる真似をしてくる。



負けないですよ、とやる気抜群の涼翔は両親とダーツで遊んだことが何度かあるらしい。


経験がないと伝えると少し小馬鹿にされた。


カウントアップ、ゼロワン、クリケット、ゲームの設定とルールの説明を涼翔が下手くそながらにしてくれる。


30分ほどダーツで遊んでいると雲行きが怪しくなってくる。少しずつ涼翔の口数が減ってきて楽しい雰囲気が壊れてきた。


俺は初心者なりにダーツを投げていた、当てたい場所に百発百中で当てられるわけもなく。


ただ何故か全戦全勝してしまう。


気づかれないように外して負けようかとしたが、思った通りに外せるほどの命中力もない。


別のゲームに行こうかと案した所で、赤い目をしていた涼翔は何も言わずに走って行ってしまった。 


『あ、ちょっとまって』

涼翔に手を伸ばすが届かない。


遊んでいたスペースを颯爽と片付け、追いかけようとしたが見失ってしまった。


施設内を探索し、別階のトイレ前の横長のベンチの上に体育座りになり膝に顔を埋めていた。


おもちゃ買って貰えなかった子供の姿が、今の涼翔を見て浮かんできた。


名前を呼びかけて頭をぽんっと2回優しく叩く。


『どーした?大丈夫そう?』


無反応でしばらく待っても変わらない。


せっかく来たのにと痺れを切らして、少し力強く体をゆすると俺の手を涼翔がはじいた。


流石に、悪い言葉が込み上げてきたが押さえ込んだ。涼翔が顔だけ上げると完全に泣き顔で鼻水も出てきている。


『・・・っうう ・・だっ』


さらに泣き出しそうな状況に周りの目が気になり、涼翔の手を引いて、無理やりトイレの個室まで連行する。


涼翔を便座の方に腰掛けさせ、トイレットペーパーを3回丸めて涼翔に手渡す。


鼻を噛んで少し落ち着いたのか息を整えるのに深く呼吸をした。


追加でトイレットペーパーを3回巻き取り、涙で濡れた頬に当てて拭き取る。


『ありがとうございます。せんぱい・・・

ごめんなさい、せっかく楽しく遊んでたのに』


『俺何かした?』


少し冷たい聞き方に感じられたかもしれない。。


『せ、せんぱいは何も・・・

初めてやるって言ってたからいい所見せたかったのに・・ せんぱいに勝てないし・・』


そんな事で・・と言い返そうとした所で


『お、怒ってます・・か?』とまた泣き出しそうな表情で聞かれてしまった。


こんな事で怒らねぇよ、と返し涼翔の髪の毛をくしゃくしゃと撫でた。


時間もったいないしと、涼翔をつれ個室を出た。他の施設を周りバッティング、レーシングゲーム、などやり尽くして遊んだ。


もちろん手加減をして、勝率は涼翔が上になるように。


一通り遊び尽くして、涼翔の泣いていたベンチに戻り腰掛けた。ベンチ前の自動販売機でコーラを2本買って涼翔に渡す。


『あ、ありがとうございます・・・

ごめんなさい今日は本当に、遅刻もするし、迷惑かけちゃうし』


さっきまでニコニコと楽しげに遊んでいた

涼翔の顔は少ししょぼんとしている。


本人なりに悪いと心から思っているのだろう。


『僕、負けず嫌いで・・・』


『まあ、楽しかったし。また今度こよーな』


気にするなよと背中を2回叩く。


しばらく談笑をしていると涼翔の目がうつらうつらしてきた。


帰ろうかと聞いた時には遅く、俺の肩に頭をもたれて眠ってしまった。



ほんとに小学生みたいだと思いながら

あまりにも気持ちよく眠ってしまっている。


起こすのも可哀想で、肩をそのままにスマホをいじって時間を潰した。





20分ほどで、はっと目を覚まして

寝ちゃってましたかと聞いてきた。


『よだれ垂らしてたぞ』と冗談を言うと

えっと口元を袖で拭う。


お腹空きましたーと言われると自分のお腹も空腹を感じ始めた。 


帰りに駅前のラーメン屋でラーメンを食べて初めての遊びは終わりとなった。


涼翔を家まで送った、3階建てのコンクリートアパートの3階に住んでいる。



家に帰ると涼翔からLINEが届いていた。

【今日は楽しかったです! 

 また遊んでくださいψ(`∇´)ψ】



手のかかる後輩を持つと大変だと思いながらも、初めての後輩に心がはずんでいる。


【また遊ぼう(*・ω・)ノ】









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