好きになったらいけない恋
紅○慧
season1
第1話 はじめての後輩
体に電撃が走るって表現はまさに今
この事だろうと冷静になった。
何も言わずに涼翔は俺に馬乗りになってから
ゆっくりと顔を近づけて唇を合わせた。
優しくて、酸味のある。
胸の振動も、体温も急加速していった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
今でも忘れない。
大切な記憶のフォルダに留めている。
悩んだ。
人と違うかも知れないという恐怖が自分を包み込んだ。
今となれば思える。
あの日々は最高に楽しかった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
舗装のしっかりされていない小道を抜けて、田んぼの間の細道を進む。
山からの追い風に吹かれて二車線の道路を駆け抜ける。
城山の山沿いの道路で近道をして、
高校の近にあるコンビニの前を通る。
正門から真面目に通学してる1年生たちを横目に、少し優越感に浸りながら裏門から入り部室の前に自転車を停める。
高校2年生になった俺は、後輩が出来ることに少し浮かれていた。
中学時代も後輩はいたが、100人規模の大規模な部活で上下関係も厳しく後輩と遊ぶと言うことは全くなかった。
おはよう、と部室に入ると先輩2人と同級生4人が先に集まっていた。これで全部員だ。
今日の放課後は部活の登録会の日。
1年生達が自分の入りたい部活に入部届を持ってくる。
僕たち弓道部は部員7名と少なく、どうにかして部員を増やそうかと朝から話し合っていた。
話し合った所でしょうがないと思いながら
みんなの話を聞きいていると、開けたままの部室の扉から人影が見えたので不意にそっちに目を向けた。
新しい大きめのブレザーの制服、首元の校章は1年生の赤色、黒色のリュックを背負って
道に迷っているのか、あたりを見回している。
少し気になり話し合いを黙って抜けて、外に出た。
『どうしたの? 道にでも迷った?』
黒髪短髪、幼顔の1年生は急に話しかけられてびっくりしたのか、こっちを見て固まってしまった。
変な子だな。第1印象はそんなものだった。
『大丈夫?』と優しく話しかける。
大丈夫ですと言い返したいのだろうが、言葉が詰まってずっとあたふたしている。
なんとなくそれが面白くて、黙って見つめていると急に校舎の方に小走りで行ってしまった。
大丈夫かな、と心配になりながら話し合いの輪に戻ると朝のホームルーム開始10分前のチャイムが鳴り響いたので先輩たちと別れて教室に向かった。
放課後、提出の忘れていた宿題を国語の先生の所に持って行くと話が長引いてしまった。
みんなに遅れて部室に入ると見知らぬ後ろ姿が2人いるのに気づいた。
見た目強面の部長があれこれと必死にその2人の緊張を和らげようと話しかけているのが逆効果に見える。
『よっ』と同じクラスで天然キャラの拓也肩をぶつけてきて、自慢げに中学の時の後輩を連れてきたとアピールしてくる。
新入部員が0で無いだけよかったと安堵していると拓也が『おーい』と後輩の方に呼びかけると少し遅れて2人が同時に俺の方を振り向いた。
『あっ』と
思わず心の声が漏れた。
どうかしたか?と拓也が聞いてくるが、それに反応せずに1人の方を見つめる。
朝の1年生だ。
拓也の事だから、後輩と待ち合わせか、呼び出しをしておいて、すっかり忘れていたのだろう。
それで1人で部室の前を彷徨っていたのか。
天然の拓也の性格を1年間見ていれば、聞かなくても分かるようになっていた。
拓也は自然と人に迷惑をかける。
部長の集合の呼びかけで、ダラダラと輪を書くように集まり自己紹介が始まって自分の順番が回ってくる。
『 宮下 紘乃(みやした ひろの) 2年です
宮下先輩でも、紘乃先輩でも、どちらでも
よろしくお願いします。』
簡単に在籍メンバーが自己紹介を終えて、次は1年生よろしくと自己紹介を促す。
2人が顔を見合わせてどちらが先にするか戸惑いながら数秒見つめ合い、眼鏡の子の方が先に始めた。
『武田 純 (たけだ じゅん)です。
弓道経験ありませんがよろしくお願いします。』
自己紹介が終わると拓也が耳元で、そこらへんうろちょろしてるの捕まえてきた
と囁いた。
眉毛をひそめて拓也の顔を見ると自慢げな顔をしていた。
『 ・・ずとです。 』
拓也に気を取られている間に、聞き逃したのかと思ったら声が小さくてみんな聞き取れていなかった。
部長がもう少し大きい声でと拓也の後輩に告げる。
『真紘 涼翔 (まひろ すずと)です。』
左手で髪をずっと触って緊張を見せている。
その日は、部活中のルールやら練習内容を簡単に説明していつもの練習より早めに終了した。
1年生を先に帰らせで、部室で最近流行りのアプリゲームをみんなでやりながら談笑する。
『あの2人辞めないかな』
部長が不安そうに聞いてくるが拓也が大丈夫っすよ、と軽くかえす。
『拓也の後輩って部活一緒だったの?』
『いや、友達の後輩だから中学同じなだけで 正直あまり知らないんだよね』
よくもまぁ、その友達の友達程度の後輩を自分の後輩だと自信満々に連れてきたなと眉をひそめて睨んだ。
話すネタもなくなり、そろそろ帰るかとみんな帰宅の準備をし始める。
また明日とみんなと別れて、押していた自転車にまたがって朝とは少し違う道で帰る。
コンビニの前を曲がって、こっちからだと帰りの急な坂が少なくて楽に帰れる。
しばらく走ると前の方で、自転車を押して進んでいる人が目に入ってきたがその横を通り過ぎる所でブレーキをかけた。
『涼翔? どーした?』
自転車を押し歩くのは拓也の後輩の涼翔だった。自転車を停めて近づいて顔を見ると、目が赤く泣きそうになっていた。手も黒く汚れている。
『ど、どーした?』
改めて聞き直しても鼻をすすって泣きそうになっているだけで状況がわからない。
涼翔の自転車の方に目をやるとチェーンが外れているのに気がついた。
なんとなく状況を理解して、涼翔の自転車に手をかける。4.5分ほどチェーンと格闘して
どうにか直すことができたが手が真っ黒になってしまった。
『一緒だ』と真っ黒になった両手を涼翔の方に向けてニヤッと笑みを作ったが笑ってはくれなかった。
泣き止んではいるみたいだが、人見知りなのだろう。
『ありがとうございます。』とだけ告げられる
早く帰りたかったのかそそくさと自転車に乗って進んでいってしまった。
先輩って大変だな、と心の中でぼやいて
朝の浮かれていた自分を恥じた。
次の日の練習後、帰る方面が一緒だったので自然と涼翔と2人で帰ることになったが後悔した。
『好きな色は』とか『休みの日は何してるの』など当たり障りないどうでもいい質問を投げかけるが返答はない。
人見知りにも程があるだろと心の中で自分に突っ込んだ。
もしかして嫌われているのか、などと不安になりながらも別な質問を繰り返す。
そんな帰り道が1週間続いた。
半分ヤケクソになっていた帰り道、1人で帰ればいいものの何故か一緒に帰ることを続けていたが今日はいつもと違かった。
『紘乃先輩・・・』
一瞬誰に呼ばれたのか分からなかったが、涼翔が俺を呼んだようだ。
『な、なに?』急に呼ばれたもので返事をする準備ができていなかった。
『ごめんなさい、毎日一緒に帰ってくれてるのに、このままじゃだめだって思ってたんですけど、何話せばいいのか考えてたら何も話せなくなっちゃって』
『涼翔って結構な人見知り?』
『・・・人と話すの得意じゃないです。
だから・・・
わざわざ一緒に帰らなくても大丈夫です。』
少し棘のある言い方が、話してくれるようになったと期待に膨らんだ胸にハリが刺された気がした。
思わず眉をひそめそうになったが耐えて余裕な表情を作る。
『まあ、後輩だし』
『後輩なら純もいるじゃないですかなんで僕ばっかり気にかけるんですか?』
『先輩も僕を・・・
少し焦った表情で早口だったが途中で言葉を閉した。
『僕を、なに?』
首を横に振って黙り込んだ顔は、少しずつ目が赤くなって下を向く。
『俺がこうしてるのは、涼翔と一緒にいると楽しそうだなって勝手にしてるだけだし
それに俺も人見知りで、こう見えて友達が少ない』
先輩ずらをしたがる俺が勝手に語り出していた。
何も気にするな、と涼翔の左肩を2回叩く。
『明日も一緒に帰ってくれるんですか?』
赤くなった目と掠れた声でこっちを見つめられ、うんと頷く。
気まずさに耐えられず、それじゃまた明日と、もう一度左肩をポンっと優しく叩き自転車にまたがる。
『せんぱい・・』
漕ぎ始めようと力を入れた瞬間呼ばれ、歩み寄ってくる。
『 先輩は、いい人そうですね』とニコッと笑った。
不意の笑みにつられて思わずにやける。
『どーゆーこと?』
『こーゆーことです』
涼翔がそっと頬にキスをしてきた。
突然のことで何がなんだか分からなかった。
『先輩また明日・・・あと僕のこと『すず』
って呼んで欲しいです』
俺の返事も待たずに自転車に乗って走って行ってしまった。
後輩って難しいなと頭を悩ませた。
翌日の帰りからは、今までが嘘かのように好意的に話をしてくれるようになった。
あのキスはなんの意味があったのだろうかと疑問を持ちながらも涼翔との帰り道は楽しいと思えるものになった。
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