第7話 女子と空の旅

 そして、現在、彼らは飛行機という乗り物の存在の恐ろしさを知ることになる。まず、空港に来ることも初めてな人が四人もいてチェックインや手荷物検査など飛行機に乗るために必要な手続きでやたら時間がかかり、ぐったりとしていた四人+一名は搭乗し、機内へと入っていく。初めて間近で見る飛行機という乗り物の大きさに驚きながらも興奮状態であった。 「うわぁ、すげぇ。デッカケェ!!」と五歳児のように目をキラキラさせている秀。

「少しは落ち着けって」と言いながらも普段のクールさはない優貴。

 女子二人も写真を撮ったり、武藤も未知への物体に興味が湧いていることから傍から見て取れた。周りの乗客もそんな若々しい高校生五人組を見て微笑ましそうに笑っていた。

 現在の時間は12時50分。離陸までもう間もなくだ。そんな中、アナウンスが入る。

⦅皆様、本日はジェットスターエアライン、並びにエアアジア共同運航便をご利用くださいまして誠にありがとうございます。新千歳空港には2時40分の到着を予定しております。現在の北海道新千歳空港の天候は晴れ。これから、安全に関するビデオをご覧頂きますが、到着まで快適な空の旅をごゆっくりお楽しみください》

⦅まもなく離陸致しますので、しっかりとシートベルトをお締めになり、リクライニングとテーブルを元の位置にお戻しください》と軽快な口調のアナウンスが流れると同時に、前方のビデオの映像が流れ出した。

 それを聞いた俺らは身を引き締める思いで、その時を待っていた。体が重力に逆って浮く感覚に吐き気を催した。今まで電車などに乗った時とは比にならないレベルで気持ち悪かった。

「うわ、気持ち悪……」女子がいる手前、下品なことを言えないが他の人を気遣う余裕はあまりなかった。

「秀、大丈夫?」と物凄く心配そうに紗耶香が上目遣いでこちらを見てくるが、普段ならガッズポーズをしているところだがそんな余裕はなく、全然大丈夫ではない。なんとか無理をして頷いて見せた。

 しかし横から夏海が、「そんなわけないでしょ。強がっちゃだめだぞ~」って言いながら酔い止めを渡してくれた。(いや、最初から渡してくれよとツッコミながら………)

 どうやら、飛行機による旅行が初めての俺らが飛行機による恐ろしさを舐めていると予想して、自分の分以外にも酔い止めを常備していたみたいだ。ガサツに見えて繊細系ギャルだよな、あいつは。ギャップ萌えして可愛いわ。と、思っていたら、鼻の下が伸びていたのがばれたのか、紗耶香から「秀、鼻が伸びているし、顔も真っ赤よ」と言われた。いくら具合が悪くても、男という生物は女子から褒められるのは嬉しいものだ。だから、笑顔で注意してくるのは心臓に悪いから辞めて欲しい。普段、聖女みたいな紗耶香が純粋に心配していることは分かるが、いつもとは笑顔が違ったように見えたのだ。ただ、いっちばん最初に言ったように俺は男女の友情は成立しないと思っている。しかし、“青春”をするためには男女の友情というものが欠かせない。俺は今のところは恋をするつもりはないから、もし紗耶香が……いや、それはないか。俺の考えすぎだな。そもそも紗耶香みたいな完璧美少女が俺みたいなモブ陰キャを好きになるはずなんてないし、二ヶ月で人を好きになるようなタイプにも見えない。俺がこうやって一人勘違いをするから、今まで失敗をしてきたんだ。過去の自分を思い出して、“青春”をするために考えろ。言葉を発するより、行動するより、考えろ。それが、恋でも何事も上手くやるための秘訣なのだから。

「しゅーが真っ赤になるのも無理ないけどね~こんな美少女の間に座ってるんだから。ちょっと間違えればハーレムみたいなものよ(笑)」と事実を淡々と並べ、当日まで飛行機の座席を知らなかった俺にはどうしようもないことで圧力をかけてくる。可愛いものには棘があるとはまさにこのことだが、幸せだし、まあいいかと思った。


 夏海が言ったのを機に、紗耶香も「秀もやっぱり、男の子やの~」とからかってくる。

 今や皆、SNS を使う時代であるが、俺は携帯を持っていないため、このネタを分からなかった。雰囲気を壊したくない俺は、助けを求めるように後ろ座席に座っている武藤と優貴に助けを求める。

 いつもは静かな武藤が助け舟を出してくれた。

「秀はSNS から離れていると言ってたから、TikTok のネタは分からないじゃないかな? 」

 「いま聞いただけだけど、僕はその音源が凄い好きだし、工藤さんが動画up したらすごいバズると思うんだけどなぁ」と惜しむように言う。そう、紗耶香は全くと言っていいほど、SNS を更新しない。所謂、見る専(Rom 専)とも言ったりする。紗耶香のそんなところはすごく信用している。それについては僕も同感だとばかりに優貴も首を縦に振っていたが、夏海が男子ってほんと、単純よねと言ってきた。

「こんなに美人で完璧なさーちゃんがSNS で情報を発信したらストーカー被害とか怖いでしょ。色々なことを考えているのよ」と何故か自分の事かのようにドヤ顔で語る夏海。こういうことを言われると、SNS は利便性と恐ろしさの二面性を持っており、これだけSNS が利用される時代になってもSNS に対しての嫌悪感は拭えない。


【話は脱線するが、SNS は様々な情報が飛び交う。一ユーザーの意見であっても周りからしたらイラつくかもしれない。我々、ライトノベル読者なら、よく感想ツイートをする人がいることは理解できる。自分は感想で本音を書くので良いと思ったことも素直に書く。しかし、中には作者に対して批判的に捉えられることは書きたくないって思う人もいるだろう。要するに、その人が感想に対してどういうスタンスであるのかという違いだろう。しかし、SNS は自分を発信するツールであるため、他者に対する配慮は難しい。如何に自分の意見の主張しつつ、相手の意見を受け止められるかが大切である。自分の主張を通すだけなら誰だってできる。赤ちゃんですら泣くことで、お腹が空いた、眠い、イヤイヤなど様々な意思を示すだろう。ネットを利用する上では、ネットマナーを守り自分の発言に責任を持つことが大切であると言える。】


 だいぶ話がそれたが、飛行機が上空一万メートルを飛んでいる中、女子の寝顔を拝見することで何とか乗り物酔いを軽減することができた。女の子の寝顔を合法的に眺められて最高。そんな感じで初の飛行機旅も終わりが近づいてきた。いや、冗談抜きで着陸態勢に入るアナウンスを聞いた時のホッとしたこと。夏海が酔い止めを持ってなかったらマジで死んでいたかもしれない。北海道から旅行に行く人は毎回、こんなに辛い思いをしながら、来ているのかと思うと尊敬の念を抱く。着陸の際の振動にビビった俺たちだったが、何とか無事に誰一人欠ける事なく北海道という海に囲まれた島に上陸したのであった。{島じゃねぇ!!}

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