第6話 夜の打ち合わせ

 こうして、俺たちは紗耶香と夏海を中心に夏の勉強会が開講されることになったのだが……

まさかの、勉強会と言いつつ、勉強合宿が敢行される運びになった。勉強会といえば 女子たちがお淑やかに、分からない部分を一つ一つ丁寧に教えてくれて、勉強というものに対しての意欲も湧きつつ、楽しみながら覚えられる高校生ならではのイベントのように感じる人も多いのではないだろうか。そして、それを機に思い人との距離が縮まり、勉強会に対して有難さすら感じている人もいるのかもしれない。だからこそ俺はめっちゃ楽しみにしていたのに、何故か勉強会から勉強合宿に名目が変わっており、俺たちは今、北海道の洞爺湖に来ていた。


 なぜこうなったかというと、少し時を遡る。


(勉強会をすることが決まってから三時間後……) ⦅Line!!》ピコン。紗耶香から一件、新着メッセージが届きました。

⦅今、時間ある?少し、電話したいんだけど、いいかな?》

夏海は珍しく深夜にメッセージを送ってきた紗耶香に対して何かあったのかなと不安になりながらも返信をする。

⦅今、お母さんにお風呂入れって言われちゃったから一時間後なら大丈夫だよー》

夏海は帰宅部だがバイトをしているため、夜ご飯と入浴は自然と遅い時間帯になってしまうのである。また、うちの家庭では、お風呂で携帯を使うことを禁止されているため、通話を始めるのが遅くなってしまうことに申し訳なさを感じながらも、携帯の画面を閉じ、急いで入浴の準備を始めた。

⦅了解~》

といつもは返信の遅い紗耶香が、可愛い絵文字スタンプを秒で返してきたことは夏海はお風呂を上がるまで知る由はなかった。

お風呂から上がり、髪 を乾かしていると、時間通りに紗耶香から電話がかかってきた。

⦅もしもし~聞こえる?》

⦅あ、夏海ちゃん、聞こえてるよ。夜遅くにごめんね~》

⦅どうしたの~》

⦅今日学校でさ、勉強会をしようって話が出たじゃん?》

⦅あの後に優貴くんから連絡があったんだけど、勉強会から勉強合宿という名のお泊まり旅行に変更してほしいって言われたの。流石になんで?って思ったから理由を聞いたんだけど……》

⦅ゆっきーが連絡するなんて珍しいね。変えたい理由とかも聞けた~?》

⦅まだ確信は持ててないらしいんだけど、秀の中学の炎上に絢香先輩が関わっているらしくて

……》

⦅それがなんか関係してくるんだよね?まったく話が見えてこないんだけど》と電話越しでも分かる苦笑をする夏海。そりゃあ、そうだよね。私も最初聞いた時、理解できなくて聞き返しちゃったもん。

⦅優貴くんが部活の時に、絢香先輩が同級生の人と図書館で勉強会をやるって話をしていたのを聞いたみたいなんだよね。秀は中学の時にあるトラウマを抱えていて、今でもそのトラウマを乗り越えれていないから、今はまだ絢香先輩になるべく近づけさせたくないらしいんだよね》と説明する紗耶香。

⦅なるほどねぇ。じゃあ、優貴から見て、絢香先輩が秀の炎上の原因である可能性があり、それを秀が知るとああ見えて繊細だからショックを受けると思って、なるべく遭遇するような所にはいかせたくないってこと?》と的確な推理を披露する夏海。

⦅大体、そんな感じで合ってると思う~まあ、勉強もやりつつ息抜きに観光もしたら楽しんじゃない?》ってことらしい。まあ、入学して二ヶ月も経って同じ部活であれだけ絡めば気づくか……などと思いながらも優貴の観察眼に、私は素直に尊敬すると同時に絢香先輩に対するモヤっとした気持ちが晴れないのであった。夏海の声を聞いて自分の世界から抜け出せた。

⦅まあ、三連休だし、旅行行くのにはちょうどいいかもしれないね》と前向きな姿勢を見せる。

私的にはその方が秀との距離縮められるしい嬉しいかなぁなんて打算的なことを考えつつ、⦅旅行に行くなら、北海道がいいかな~》と言う。⦅あ、それいいね。実は北海道なら私、地元だから伝手があるし、頼んでみるよ。多分、武藤くんは反対しないと思うけど、秀以外の確認が取れたら、そうしよ》

秀にばれたら、絶対に気を遣ったと思われ反対されるから、当日のサプライズにしておくなどの詳細を決め、無事に“北海道勉強合宿兼プチ旅行”が決行されたのである。


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