第2話 青春のための1歩

「 現実で男女の友情は成立しない」、そう考えているのが俺、陰キャ代表の佐藤秀さとうしゅうだ。陰キャ、陽キャ、そう勝手に定義づけをしているのは空気を読んでいる俺らの勝手なのかもしれない。しかし、高校生活という狭い閉鎖的空間において空気を読むスキルというのは必須項目である。ニコニコ笑っているふりをしながらする、自己紹介だってミス1つで陰キャレッテル貼られてしまう恐ろしい場所だ。俺には教室の中心にいる、イケメン武藤颯むとうはやてや見るからにモテそうな美女の工藤紗耶香くどうさやか、(校則を暗黙の了解で破っている)金髪でメイクもバッチリ決めており如何にも「私、ギャルです」っていう格好の日向夏海などひなたなつみを筆頭にオーラがキラキラしてる。そんな俺に「秀、混ざってこようぜ」と朗らかに声を掛けたのが俺の中学からの親友、長谷川優貴だはせがわゆうき。こんな、俺にも声を掛けてくれてくれるのだから名前の通り優しく、紳士的だよなと思いつつも重い腰を上げ、リア充集団に笑顔で声を掛ける。「俺と優貴も一緒に喋りたいんだけどいいか?」


(一同)「いいよ。一緒に喋ろう」


「じゃあ、まずは自己紹介から。俺は佐藤秀。里崎中学出身だ。中学校の時は色々あって教室の隅で1人寂しくポツンと読書をしていたから、高校こそは青春LIFEを満喫するんだ。中学はバスケ部だったからそのままバスケ部に入ろうと思っている。まだ、お互いの事を全然知らないけど、まずは1年間よろしく頼む」


「青春したいって今時、そんなことをわざわざ口に出して言う人がいるんだ。うける~」

「え?」

 自分の目標を口にするのは初対面ではしないものなのか。最初っから陰キャムーブをかましてしまったな(笑)

 なるほど、メモをして次からは気を付けようと密かに冷や汗を掻く主人公だったが、優貴が自己紹介を始めたため、それ以上追求されることはなく非常にホッと胸をなで下ろしたのであった。


「僕は長谷川優貴。秀と同じ里崎中学出身で、バスケ部に入るつもりだ。秀とは中学は違うクラスだったけど幼馴染だから、コイツのことなら何でも分かるから遠慮なく聞いてくれ。」

「僕は武藤颯。雨宮西中学出身で野球部に入っていたけど、噂で可愛い子が多いって聞いたからバドミントン部に入るつもりだよ。こんなコミュ力高い人たちについていけるか不安だけど頑張るよ。よろしく」

「私は工藤紗耶香。バドミントン部に入るつもりなんだけど、武藤くんがさっきエロい目で見ていたからな~(笑)ああ、ウソ、ウソ。怒ってないよ。冗談!(笑)こちらこそよろしくね」

「あたしは日向夏海。沢山遊びに行きたいし、バイトもしたいから部活は入らない~面白くて楽しいことは何でもやりたいから色々誘ってね。良かったら、みんな携帯の連絡先交換しよう~?」

「ッッ!!」

「僕はいいよ~秀は携帯持ってないから交換できないけどな(笑)」

「ぼ、僕で良ければ是非!!」

 それから、俺らは趣味や好きな人のタイプなど様々なことについて語った。意外だったのは、イケメンの武藤がネガティブだったことだ。それを女性陣の2人が持ち前の明るさでフォローしていたのも良い関係性だなと思った。


 今や誰もが利用するSNS。俺は中学時代に炎上したこともあってSNS に対しての嫌悪感を拭いきれず未だに携帯を持っていない。そのため、自己紹介の際に行われる連絡先の交換が鬱陶しいこと、この上なかった。しかし、三人は俺の唇が青ざめていることから、察したかのように連絡先の交換を求めてこなかったため、人間関係の構築に適していると踏んだ。俺はこの高校生活の中で、中学では出来なかった青春をしようと思った。だから、クラス筆頭の陽キャ集団である彼女たちに優貴と共に声を掛けることにしたのだ。青春をするのには陽キャ集団とイベントを過ごすのが最適だと思い、予めある程度、作戦を立てていた。人生一回きりの高校生活くらい、みんなで海に行ったり、夏祭りに行ったり、旅行にいったり、部活で結果を残したり、みんなで協力して文化祭を成功させたり、儚いような恋をしたい。それくらいの権利は陰キャにだってあってもいいはずだ。権利は平等に与えられている。それを掴めるかは結局、自分の努力次第ということだ。何もせずにイケメン生まれたかったとか文句を言っている奴は傍から見ると哀れだし、馬鹿だなと 軽蔑され、その時点で高校という閉鎖的空間においては浮くのである。世の中、どんな身分であれ自分の言動に責任がついて回っているのである。


〈初めての先輩〉

 黒いスーツをしわなく、びしっときめ、眼鏡を掛けたポニーテールの女性が教室に入ってきた。どうやら、この人が担任らしい。とても厳格そうな雰囲気が醸し出されている。しかし、話しを始めると物腰柔らかな人だなと印象が大きく変わった。やはり、何事も偏見はよくないな。先生の美しい顔面を眺めていたら、あっという間に話は終わり、中学の頃の太ったジジイの教師に対して抱いた感情とはまるっきり真逆の尊敬の気持ちを抱いた。


 自己紹介を終えた俺たちは先輩方による校内案内や部活説明の時間となる。そこで1―B教室がざわついた。茶髪でウルフカットの風紀委員長と小柄でロリ体型の巨乳な先輩がいたからだ。

「新入生の皆さん初めまして。風紀委員長を務めている2年の大友絢香おおともあやかだ。こっちのちっこいのが天野美月あまのみずきだ」

「ちっこいって言わないでよ。絢ちゃん」

「分かった、分かった(笑)今から後輩に説明するから少し黙っていような~」

「君たちは手元にある資料を見て欲しい。今から順番に校内を回って行き、最後に部活動紹介となる。何か質問があれば適宜、時間をとるから私語は慎めよ。それでは出席番号順についてこい」

「はいはい~絢香先輩、質問があります。先輩は何の部活に入っているんですか。僕、先輩がどストライクなので先輩のいる部活行きます~」と言ったのは優貴。

「私語は慎めといったはずだ。高校生にもなって、日本語が理解できないのか!放課後、生徒指導室にくるように。それでは、今から校内案内をしていくぞ」

「やーい、初日から指導だって。優貴にしてはあんなこと言うなんて珍しいじゃん。そもそも、バスケ部に入るって決めてたのにそんなにあの先輩が気に入ったのか?」

[お前が言った青春を叶えるには何でも挑戦しないと無理じゃね?普段と同じことをしていても変化は起きないよ。スパイスを求めるなら、自分からの行動が必須よ(笑)]

「おい、そこの2人うるさいぞ。アッシュグレーの髪色の奴も生徒指導室に来い」

「……おい」


〈学校見学〉

「今見て回っていて分かるように本校には購買に体育館、トレーニング室に、プールなど

 様々な施設が備わっており、充実したライフが送れるようになっている。ちなみに私のお気に入りは生徒指導室と生徒会と体育館。」

「それは絢香ちゃんだけだよ。何がどうしたら生徒指導室なんか好きになるのさ……」

「案内は以上だ。次は部活動紹介に移る。例年、部員争奪戦が行われるが、今年は何人怪我人がでるやら……私目当てならバスケ部だぞ。入部したら、男女構わずしごいてやるから待っておけよ~」

「げげぇ!!優貴きいたか。絢香先輩がバスケ部って俺ら……」

「ちなみに私は美術部だから、私とデッサンしたい人は入ってね!男の子は特に少なから大歓迎だよ!」と美月先輩が言う。

 ひそひそ声でロリコン好きが集まりそうだと言っている奴がいてああいう人間にはなりたくないなと切実に思ってしまった…(自分を変えるためにも)

「私は多分、バド部かなぁ。もともとバド部だったし。」と言ったのは紗耶香。

「ぼ、僕もバド部だから、紗耶香ちゃんよろしくね」と、挙動不審に言うのは武藤。

「武藤君と一緒かぁ。一緒に頑張ろう!私は中学もバドやってたから分からない事があったら何でも遠慮なく聞いてね」

「みんな部活入るの偉いね~あたしはバイトしたいからパスかな~」と言ったのは夏海。

 俺は青春には部活という要素が欠かせないと思っている。モテるため、友達を増やすためなど理由は様々だが、部活をした方が間違いなく充実した生活を送れるはずだ。

 中学の頃にバスケをやっている男子はカッコイイと当時クラスの中でもトップのリア充が言っていたので俺はバスケ部に入ったのだが… まあ、今はそんなことはどうでもいい。高校の部活のレベルを知るチャンスだな。


〈部活動見学〉

 「ダムッ、ダムッ」とボールが風を弾ませる音がする。そう、彼女は高校二年生にして超高校級の選手。中学高を卒業したばかりの一年生が中学と高校の差を見せつけられた瞬間でもあった。絢香先輩は圧倒的な技術力を持っていた。見ている彼らはその場で彼女の釘ずけになった。 それは単なる練習の積み重ねでは絶対にでない華(才能)があった。誰よりも高く、美しく、飛んだ。 一番の高みに。身長では男子に劣る彼女だが、彼女には人を惹きつける能力さえ備えていた。見ている者は皆、圧倒された。言葉が出なかった。何度かボールを突きながらそのままシュートした。ボールは弧を描くようにリングに触れることなく吸い込まれていった。超絶3ポイント。そう、彼女はシューターであり県トップレベルの実力を有している。


 暫く様々な部活を見た後、呼び出しを受けた俺と優貴は生徒指導室へと向かった。


 ~放課後~生徒指導室にて


「おお、きたか。全く初日から生徒指導とはやらかしてくれる。何もこうなることを予想していなかったわけではないだろ?」

「絢香先輩、一個年上なだけでずいぶん偉そうじゃないですか?いくら風紀委員長とはいえ、生徒という同じ立場に身を置きながら、権力の行使をしすぎなんじゃないですか?

 まあ、学校という狭い空間にいる以上はある程度権力を持っている人がいなければここまで生徒たちが大人しいのもおかしいことだからな、暗黙の了解というやつですか」と溜息をつきつつも何故こんなマネをしたのかと、問うような視線を優貴に向ける。

「絢香先輩、何故僕らがこんなふざけたマネをしたのか分かりますか?」と絢香先輩に質問を質問で返す優貴。

「君たちは私に対して質問できる立場にあるのかと問いたいところだが入学初日だから、見逃してやろう。あえて、問おう。何故、お前たちはこんなことをしたのだ?特に長谷川くん。佐藤くんは君のせいで巻き込まれた感じになったが、佐藤くんに関しても何故君がこのような態度をとったのか疑問に思う節はあるんじゃないのか?」

「そうですね。僕は普段は真面目なのでこんなことをしたのは人生で初めてなのですが、秀と僕で誓った約束があるんですよ。強いて、言えばそのためですかね」

「君たちは何を誓ったんだ?学校で問題を起こして目を付けられることでも誓ったのか!」と詰問する絢香先輩。

 はっきりと具体的な案もないまま、すごい剣幕で問い詰められ絢香先輩を前にだんまりを決め込んでしまう秀。

「それはですね絢香先輩、“青春”ですよ。こうやって入学初日に怒られることも、学校で何か騒ぎを起こしてしかるべき処分を受けることも、部活で優秀な成績を収めることも恋愛も何もかもひっくるめて青春であり、高校生活が終わればただの思い出の一ピースに過ぎないんですよ。そのために後悔を残さないように、色々チャレンジしているにすぎません。絢香先輩だって、理由があってこの高校に来て、部活に入部され、風紀委員長なんて大変な役職に就かれているのも自分のため、ひいては学校生活を充実(青春)させるためなんじゃないんですか?」

「なるほどね、行動の意図はなんとなく理解したわ。ただ、学校に迷惑をかけることはやめなさい。思い出になるかもしれないけど、苦い思い出になりうる可能性だってあるんだから。義務教育とは違うってことを念頭に置いておきなさいよ。で、さっきの質問だが私の答えはyes でもnoでもないな。まあ、半分くらいは青春をしたいという気持ちはあるがそれよりも自分を見つめ直す時間かな。中学時代あんなことをしな…これはお前たちには言っても仕方ないことだな。まあ、そんな感じだよ」

「なるほど。こんな、超人の絢香先輩にもそんなことがあったりしたんですねぇ」と感傷的な発言をする秀。

「私なんて全然超人なんかじゃないぞ。欠陥だらけだとつくづく思わされるよ。まあ、そんなことはさておきお前たちにはお仕置きが待っているんだぞ。そのためにわざわざ人目のつかない所に呼んだんだからな」

「えぇ、今、めっちゃいい感じに話が終わって解散の流れだったじゃないですか。そもそもお仕置きってなんですか……高校生にもなってまさか体罰食らったりしちゃうパターンですか?」と涙目になっている秀と、かつてないほど真剣な表情で絢香先輩を見つめる優貴。

「さあ、お前らにはそこの机に手をつき尻をだせ。恥ずかしがらなくてもいいぞ。これのためにわざわざ怒られる行動をする奴もいるくらいだからな」といきなり手に鞭を持った絢香先輩がそこにはいた。

「何で学校に鞭なんかあるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

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