翠は今、十八歳だった。

 自分よりも紅お嬢様は四つも年上だったのだけど、見た目はともかくとして、心はまるで小さな妹のようで、お姉さんのようには思えなかった。

「では、まずはこの部屋のお掃除を私と一緒にお願いします」と言って碧は掃除道具を翠に手渡した。

 まだ着慣れていない鶯色の着物姿で翠は畳の床の掃き掃除を始める。でも、掃除といっても部屋の中はとても綺麗でほとんど掃除をするようなところは見当たらなかった。

 碧は湖色の着物の袖を折りたたんで、着物に慣れた仕草で窓拭きをしている。もともと綺麗だった窓は碧の(無駄な動きのない)窓拭きによってあっという間にぴかぴかになった。

「よいしょっと」と言って碧は陽の光を反射して光っている桶の水で窓拭きの布をぎゅっと絞った。

 二人はそれから黙々と部屋の掃除をした。

 衣装部屋の掃除が終わると二人で長い廊下の掃除をした。

 大きなお屋敷のお掃除は大変だった。

「ふぅー」

 一息ついて翠は真っ青に晴れている空を見る。汗をかいている。風が心地いい。お庭を見るとそこには立派な松の木があった。その横にはししおどしがあって、かぽんと(気持ちのいい)音を立てる。そんな長閑な風景を見ていいところだな、ここは、とそんなことを(いつのまにか笑顔になっている)翠は思った。

「あの碧さん」と翠は言った。

「碧でいいですよ。翠さん」とにっこりと笑って碧は言った。

(……、そんなこと言われで碧と言えるわけもなく)

 碧さんは紅お嬢様と同い年の二十二歳だった。

「碧さん。紅お嬢様ってどんな人なんですか?」と翠は言った。

「とても素敵な人ですよ。可愛くて、無邪気で、素直で、少しわがままでいたずらばかりするけど、そこに目をつぶればとてもいい子です」と碧は言った。

 二人は鶴の間と呼ばれている広い畳の部屋の掃除をし終わったところだった。

 そのあとで翠は碧のあとについて長い廊下を歩いて洗濯室まで移動する。

 二人で洗濯をして、そのあとで洗濯の終わった洋服をお外にある物干し竿にかけていく。

 ぱん、と音を出しながら翠は洗濯物をつぎつぎと物干し竿にかける。

「うん。掃除や洗濯は大丈夫のようですね。そうしましたら次はお料理をしてみましょう」とにこにこしながら碧は言う。

「わかりました」と緊張しながら翠は言った。

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