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碧が衣装箪笥に目を向ける。
その碧の鋭い視線に気が付いて、少しだけ開いていた衣装箪笥の隙間が音もなくそっと閉じた。
碧が怒った顔をして衣装箪笥の前まで歩いて行く。
「にゃー」と猫の鳴き声が衣装箪笥の中から聞こえる。
それは紅お嬢様の猫の鳴きまねをした声だった。
その鳴き声を無視して、碧が衣装箪笥の扉をいきよいよく開けると、そこから「あっ!」と言う声がして、紅お嬢様がだらしない恰好で畳の上に落っこちた。
「痛い! ちょっと碧! なにするのよ!!」
頭を抑えながら怒った顔をして紅お嬢様は言った。
「紅お嬢様。遊んでないで、病院に行きますよ」
冷たい目をして、碧が言う。
「嫌だ! 病院は嫌い。絶対に行きたくない!!」と紅お嬢様はもう立派な大人なのに子供のように駄々をこねてそう言った。
それから紅お嬢様は慣れた様子の橙と紫に引っ張られるようにして引きずられながら衣装部屋から連れ出されてしまった。衣装部屋から出て行くときに紅お嬢様は嘘泣きをしながら「助けて」と小さな声で翠に言った。
翠が「すみません。紅お嬢様」と慌てながら小さな声で言うと、紅お嬢様はすぐに怒った顔になって、ほほをふくらませながら、「役立たず」と扉が閉まるときに翠に言った。
そうして衣装部屋の中には碧と翠の二人だけになった。
「指導の途中でごめんなさいね。さあ、翠。うるさいのがいなくなったし、さっそくお掃除をはじめましょう」とまるでさっきまでのことがなにもなかったかのようにして明るい笑顔で碧は翠に言った。
「はい。よろしくお願いします」と翠は言った。
紅お嬢様は今年で二十二歳だった。
紅お嬢様は(黙っていれば)本当にお美しいのに、その中身はまるで本当のわがままな小さな女の子みたいだった。
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