紅のお屋敷

雨世界

1 初めまして。お嬢様。

 紅のお屋敷


 初めまして。お嬢様。


「紅お嬢様は見たかった?」

 そんな声が聞こえる。(どきどきする)

「まだ見つかっていないです」

「最後に紅お嬢様をみたのは誰?」

 そんな声を聞いて楽しそうに笑いをこらえている。

「えっと、たぶん私です」

 とそう言って控えめに翠は手をあげる。

「翠。紅お嬢様をどこで見たんですか?」

 怖い顔をしながら碧が言う。

「それは、……」翠は(言いにくそうな表情をして)声をつまらせる。

 翠の視線の先には大きな衣装箪笥がある。衣装箪笥の扉はほんの少しだけど開いている。そこからじっと誰かに見られている視線を翠は感じる。

 もし、正直に紅お嬢様のことを話したら私は初日でお手伝いさんの仕事を失ってしまうだろう。……どうしよう? ……どうしたらいいんだろう? そんなことを翠は動揺する頭の中で考えている。

 古参のお手伝いさんの碧と今日初めて新人お手伝いさんとしてこの大きくて立派な日本家屋のお屋敷で働かせてもらうことになった翠の二人は今、お屋敷の中にある大きな衣装部屋の中で向き合って話をしている。

 そんな碧の後ろには橙と紫という名前の二人の先輩お手伝いさんがいる。(二人とも笑いをこらえていた)

 翠は紅お嬢様の隠れている場所を知っている。(碧から紅お嬢様が逃げることに協力させられたからだ)

 しかし紅お嬢様からは絶対に碧と橙と紫には自分が隠れている場所を言わないように、ときつく翠は口止めをされていた。(衣装箪笥の中からはずっと殺気のようなものを感じる。背中がぞくぞくする)

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