4
4
帰宅し玄関扉の鍵をかけて、チェーンを下ろす。焦って帰ってきたものの、腹が減ってはなんとやら、ということで夕飯を食べることにした。
あらかじめ買っておいたハンバーグ弁当を冷蔵庫から取り出し、レンジに入れる。ついでにコーンポタージュも飲もう。
温め終わったハンバーグ弁当を机に持っていき、コーンポタージュを作れば……夕飯の完成!あとは……
「お湯、はっとくか」
今日の夜、約束通り……。赤マークのついた蛇口を捻り、浴槽に栓をする。浴槽に溜まっていくお湯を見ていると、不思議と身体が震える。これが武者震いというものだろうか。
もう一度栓をしたことを確認し、自室の机へと向かう。そうして夕飯を食べ始めた。ハンバーグ弁当はいつも通り美味い。コーンポタージュは……熱そうだから後で……。
そうして食べ進めている時に、ふと手が止まる。……もしウミカやあの世界が夢だったら。もしウミカが実際に居たとして、あの言葉が嘘だったら。散々考えたことが脳裏によぎる。
……いいや、きっと大丈夫だ。きっとあれは現実で、確かに過去改変は出来るだろう。何故かそう感じる。確かなものは何もないのに。
ハンバーグ弁当をぺろりと平らげ、少し熱いコーンポタージュは舌と喉のダメージを考慮せずゴクゴクと飲み干した。ホッと一息つき、溜まっただろうお湯を見にいく。……よし、ちゃんと溜まってる。
蛇口を先ほどとは逆に捻り、お湯を止める。湯船の確かな温かみを感じると同時に、鼓動の高鳴りを感じる。……よし、行こう。
「浸かれば……良いん、だよな?」
そう呟いてバスルームの折れ戸を閉じる。辺りに立ち込める蒸気がより高鳴りを感じさせる。そして、湯船に足を運ぶ。もちろん、今日一日履いていたデニムパンツとともに。
……うえぇ、気持ち悪い。生温かい感触がデニムパンツ越しに遅れてやってくる。どんどんと染み込むお湯が足へと纏わりつき、その不快感は増してゆく。
下半身が全て浸かり、不快感から逃げ出したくなる気持ちを心海へと沈め、膝をゆっくりと曲げ、上半身を湯船に浸けてゆく。今日着ていた空色の長袖Tシャツがどんどん薄縹に浸食されてゆく。濡れたTシャツが身体に纏わりつき、さらに不快感が増す。
首元まで浸かって、いよいよ身体全体を沈ませる。ところどころ髪の毛や身体の垢が浮いているのが見え、キモさ倍増。
そして、頭のてっぺんまで浸かる。
先ほどまで聴こえていた換気扇の音が消える。それとは反対に、心臓が波打つ音が大きく聴こえる。どくん、どくん。
どくん、どくん。
どくん、どくん……
どっ……どっ……
どくん。
***
なんだろう。海中の揺らめく陽の光が見える。どんどん沈んでいるような……俺は確か、ウミカに会いにいくために浴槽に沈んだはず…。
なんだか懐かしい。だけどどこか虚しい。俺はただ沈み、気泡だけが浮かんでいく。ああ、これが死――
「――はっ!」
「おっ、やっと起きましたね。まったく……人の居場所に来て最初にすることが寝ることですかねぇ〜、青人」
なんだか酷く懐かしい光景を見た気がする……。ソファに寝転がっている俺の横にはすでにウミカが立っていた。呆れた様子でこちらを覗き込む。……ということはここは、あの世界。
起き上がってしばらくボーッとしていると、横に空いたスペースにウミカが座る。やはり幻想などではなかったのか。
「ま、ここに約束通り来たってことは、信じてくれたんですね」
「……なんとなくだ。ちょっと、気になったから」
「まあ何はともあれこうして来てくれましたし、約束通り『過去を変える』ということについて、教えちゃいましょう!」
パチパチ〜、と手を叩きながら微笑むウミカは嬉しそうである。その様子を見て、こちらも今まで張っていた肩の力が自然と抜けた。
「まず『過去を変える』といっても、私は青人を『過去に送る』だけであって、直接干渉することは出来ないです。実際に行って変えることが出来るのは、青人ですから。ここ、要注意です!」
「ほほう……」
「ま、実際に行って見た方が分かりやすいですよね〜!百聞はなんたらって言いますし!それじゃコッチに身体向けてくださ〜い」
「え、あ、はい……」
ソファでとなりに座っていたウミカが立ち上がる。きっと隣同士でいると身体を向けにくいと思ったのだろう。その意図を読み取り、俺もソファから立ち上がる。そしてウミカの正面に立った。
「こ、こんな感じでいいか?」
「はいはーいそんな感じ。……ええと、確か『親友』との関係改善だから……『二月二十二日の夜』、でしたね」
「やっぱお前、俺のことなんでも知ってるんだな」
「まあなんでもじゃないですけど――ってお前ってなんですか!?ウミカです、ウ・ミ・カっ!!……それじゃ、いってらっしゃいっ!!」
その瞬間、なにやら持っていた
正面で、ニコニコしながら青い眼でこちらを見ているウミカに恐怖を覚えつつ、何故か安心感のようなものも抱いていた。突き刺さったキーホルダーが徐々に光り出し、キラキラとこちらの目に光源の刃を向ける。
そしてその刃が網膜を完全に支配し始めた、直後。光の刃がスッと消えたかと思うとそこには、見慣れたコンビニのバックヤードが眼前に広がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます