第3話

 ようやく王都に着いた俺たちは、門を通り、今日の宿屋へチェックインした。

「良かったのかい?ボンノルドさん、こんな高い宿、宿代を奢ってもらって…」

「いいんだ、お金は余ってるし、いい旅にしたいからな、せっかく本を買いに来たんだし、いい宿屋でゆっくり読もう。帰ってから読むのは耐えられないだろう?」

「そうだけど…」

「ここまでくる間、楽しかったから、気にしないでくれ」

「わかったよ、ボンノルドさん」

 

 そして俺たちは昼食を宿屋の食堂で食べた。柔らかいパンとビーフシチュー。この世界には魔物化しない動物もいて、牛ももちろんいる。王都の牛は良く肥えているので、油が乗っていて美味しい。

 飲み物はお茶ではなく、エールだった。ジョニアは酒に弱いからと、水を飲んでいた。

 

「人心地ついたね、それじゃ本屋に行こうか」

「行こう!」

 

 アコーダ・ギトフの新刊は山積みにされていた。どっかの誰かがパピルス、つまり植物性の紙を編み出してから何十年も経っていて、本自体は一般市民が買えるほどに安価になっていた。それでも高いといえば高い、日雇いの仕事1日分は最低でも飛んでいく。

 

「独身最高!家族を養うためにお金を使わなくて済むから、お金が余っててね、酒も飲まないから本を買える、最高!」

「よかったな、ジョニア、それじゃ他の本も見てみるか」

「うん!」

 

 俺たちは子供のような顔をしながら、本屋の中を回り回った。幻想伝記、カタストロフ読本、幼稚なエベル、アコーダ・ギトフのインタビュー本。

「え!?アコーダ・ギトフのインタビュー本なんてあるんだ!?」

「知らなかったな、というか今何歳なんだ?」

「確か50歳を超えてるらしい。独房に入ってたこともあったとか。その間ずっと瞑想してて、本を書こうと思ったとか、それぐらいしかわからなかったけど、これは興味深い」

「買ってくか」

「おっちゃん!これも二つ!」

「あいよ、ありがとね」

 

 俺たちは宿屋の近くの喫茶店で本を読み始めた。出てきたコーヒーは豆からできている本格的なもので、とうもろこしコーヒーとは違う。鼻をくすぐる、カフェインが入ってるなぁ、というコーヒー。それとケーキも頼んだ。頭を使うとどうしても甘いものが食べたくなるからだ。

 俺たち2人はずーっと夜が来るまで読み続けた。本の感想は、地球で古典文学を読んだ時のものと同じ。

 イギリウスの伝説という本で、魔王を倒したイギリウスが、故郷に帰ってからPTSDに悩まされ、自身の心の闇に向き合っていくという本だった。

 熟読した後のほう、というため息が溢れる。ジョニアは後少しで読み終えそうだ。

 俺はコーヒーの(何杯目だろう?)お代わりをして、サンドイッチも頼んだ。

 

 そういえば、この世界を旅すると、本当に1900年台の地球と似ているなと思う。まるで再現されたのかと思うようで、魔法などのファンタジー要素もある。まだ出会ってないが、地球から転移した人がいるのだろうか。

 ジョニアをチラ見すると読み終えて天を仰いでいた。イギリウスの伝説のラストシーンは、魔王の墓をつくり、お前も生き物の1人だったのだなとかつての宿敵に花束を贈る名シーンだった。

「よかったかい、ジョニア」

「最高だった…」

「俺も良かったよ、今回の本も」

「うん…」

「そろそろ宿屋に戻って、夕飯を食べてインタビュー本を読もう」

「そうだね!…はぁ、記憶消してもう一度読みたい」

(やっぱりこの世界の人もそう思うのか…)

 オタクにありがちな言葉をジョニアが吐いていて、どこでも同じだなと思った。

 

 インタビュー本は興味深いことが多かった。神への考察、日常生活(野菜しか食べないらしい)、スピリチュアルな経験、またこれからの本作りへの熱意。

 読めば読むほど、アコーダ・ギトフに対する興味が湧いてきた。

 ジョニアはイゴールの税金の帳簿や犯罪者の履歴の報告に行った。暇になってしまったので手持ちぶたさだ。

 一晩寝て、今またコーヒーを喫茶店で飲んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る