第2話

「ボンノルドさーん」

 荷造りを終えて普段着のジョニアが俺の泊まっている宿屋へ来た。

「ボンノルドさん、準備はできてるかい?」

「ああ、俺は大丈夫だよ、荷造りはもう終わった」

 150センチメートルほどのリュックを背負い、俺はジョニアに挨拶をした。

「すごいね!そんなに重そうな荷物持てるんだ!」

「力だけは有り余ってるんだ、職業はモンクだからな」

「そういえばそうだったね、肉弾戦が必要な時は頼むよ」

「了解だ」

 

 俺たち2人はそのまま馬小屋へ向かった。なんでも憲兵用の馬を貸してくれるのだとか。

「あとで馬を借りる料金を請求するけど大丈夫かい?」

「お金は余ってるから大丈夫」

 馬小屋の中には老馬もいたが、上等な馬を借りることができた。

 軽く馬を撫でて、この度で事故が起きないように祈る。

「それじゃあ行こうか」

 

 旅路はおよそ三日。イゴールの街と王都は割と近い。道中は文学作品の批評や感想で飽きることはなかった。

 旅路初日の夜は、王都までの道のすぐそばでテントを張った。

 しーんとした夜、ガサガサという音が聞こえたり、虫の音がするが、今日は特に魔物に襲われることなく終えることができた。

 俺はココアでもらったとうもろこしコーヒーをすすりながら、ジョニアにも勧めた。

 

「いい夜だね、ボンノルドさん」

「ああ、魔物にも襲われなくて良かったよ」

「旅はよくするのかい?」

「ああ、いろんな街へ行ったよ、カジノが主流の街や魔法大学がある街、いろんなところを回った。けど、イゴールほど居心地のいい街はなかったな」

「そうだろう!そう言われると嬉しいな、僕も憲兵として鼻が高い」

「ふふ」

「ところでギャングどもを皆殺しにしたのはいったい誰だったんだろうね?」

「さあ?噂では正義のヒーローって言われてるが、所詮人殺しだ、正義なんかじゃ無い」

「おや、ボンノルドさんはその人が嫌いなのかい?」

「いや、そんなことないよ、ただその男?は正義と言えるのか、ちょっと悩むことがある」

「うーん」

 

「僕はね、こう思うよ、その人はとっても優しくて、非道かもしれないけれど誰かのことを思える人だって。だって現にその人のおかげで平和に過ごせるのだものな」

「そうか…」

 

 俺はコーヒーを啜った。

「その人もそう言われると救われると思うよ」

「そうかい?みんなお礼を言いたがってる。名乗り出てくれたら嬉しいが、裏の奴らから身を守るためにも出てこないほうがいいからなぁ」

「そうだね」

 

 俺たちは堅パンとスープをすすり、眠った。

 ゆったりと過ごした街中とは違い、少し神経がピリピリとした。

 魔物はやってこない、おそらく本能的に俺を恐れているのだろう。

「それじゃおやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 怒り、憎しみ、それが俺の全てだった。

 国防の秘密組織に入り、王国をあだなす全ての悪人を取り締まる、それが俺の日常。

 またダンジョンに入り、強くなる修行の日々。

 暗殺するために音を立てず人を殺す練習。

 

 俺はただの18歳の青年だった。

 それが異世界転移でこの世界に来てから、お世話になった老人が死んだ。

 殺されたのだ。その老人は善良な市民で、みんなから慕われていた。

 行く宛の無い俺を助けてくれて、住まわせてくれた。

 そして復讐の鬼になった俺は、異世界転移のギフトに気がついた。

 数値化はされないが、レベルが上がるのだ。

 それも強敵を倒せば倒すほど。

 しかもこの世界にはないスキルを学ぶことができた。

 それは前の世界、地球のハマってたゲームのスキルと同じだった。

 際限なくレベルを上げて、無双する悪魔の名前のゲーム。

 俺はそれに歓喜し、樹海に潜って魔物を殺したり、ダンジョンに潜り鍛える毎日。

 

 そんな時に、後日仲間になる秘密組織の奴らに出会った。

 

 あいつらは今どうしてるだろう。王都にいれば挨拶をするのだが。

 

 まだほぼ誰も踏破していない暗黒大陸でレベルを上げ続けた俺は、もうこの世に敵がいないほどだ。

 

 しかし、まだ見ぬ強敵がいるような気もする。

 殺してやる…。

 

 あの老人に救われた俺は、心の中の獣を飼い殺していた。

 

 できれば王都では、それを解き放さずに済めばいいな、と思った。

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