第3話
次の金曜も、ごみは捨てられていた。やっぱりこけおどしじゃ駄目だったか、と苦笑いになる大人たちの中で、ふん、と慧天は胸を張っていた。自分のトラップが失敗したのに、それを意に介していないかのように。相変わらずお母さんは慧天の腕をつついている。くすっと笑った慧天は、大丈夫、と言った。何が大丈夫なの、と私は訊いてみる。ふふんっと鼻を鳴らした慧天に、大人たちも訝っているようだった。
「犯人は解りました」
ええっと一団がざわめく。
「あの看板がこけおどしだと知っているのは町内会の皆さんだけです。そしてその犯人はペットボトルも洗わないし缶も瓶もごちゃまぜだ。そんな人は一人きり。町内会外の人でも分別はしてるからね。朝一番に音をなるべく音を立てずに行ける人――ゴミ捨て場の隣、田無さんですね」
「なっ何を、証拠に」
「はい、スマホで撮った写真です。徹夜しました。僕の部屋からは街灯で照らされたゴミ捨て場が良く見えるので」
「だったらわざわざ看板なんか掛けなくても良かったんじゃない?」
「だってそしたら町内会に入る人も増えるでしょう? ごみを捨てたいから」
けろっと言った慧天に、はーっと息を吐くのは大人達だった。子供のくせに、しれっと言って見せる。やって見せる。町内会長は田無さんを見る。すっかり委縮してしまっている割に、こっそり悪いことは出来るんだなあ。大人って怖い。
「そうなのかね、田無さん」
「……すみません、介護で疲れて、まとめて出してしまっていました」
「じゃあこれ以上仕事は増やせないよね?」
「慧天?」
「僕んちに持って来てくれたら分別します。でもペットボトルの中は洗って下さい。一回五百円で請け負います」
「な、ならうちも!」
「うちもやってあげられるわ!」
大人にとっても五百円と言うのは心ときめくお値段らしい。ほっと肩の力を抜いて、やっと田無さんは深々と頭を下げ、すみませんでした、と言う。
結局田無さんの家の資源ごみは持ち回りで回収することになった。それから暫くしてそこのお婆ちゃんが施設に入ると、田無さんは自分で分別をするようになった。汚いペットボトルを見ることも無くなったし、慧天の目論見通りしぶしぶとだけど町内会に入る人も増えた。
「あれって市民税払ってれば本当は誰が捨てても良いんだけどね」
「そうなの?」
「そうだよ。でなきゃ払い損じゃない。まあ大人はお金も欲しいだろうから仕方ないんだろうけどね。繰り越しが増えるばっかりだよ、町内会の通帳。たまにそれで宴会なんかも企画してくれるけれど、お酒が出るから僕達に恩恵はない」
「恩恵とか気にしてたんだ、慧天」
「まあねー」
そんな小さな事件を解決したこともあったのです、私達。
ゴミ捨て場事件の攻略 ぜろ @illness24
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