第2話
「嘘を吐けば良いと思うんです」
議題にゴミ捨て場が出た所で手を上げた慧天は、そう言って十人近い大人達をポカン、とさせた。
「たとえば監視カメラ設置中、って書いておけば、その人が来ても帰るか、よしんば捨てても顔は割れる。そう思いません?」
それは、確かに、とざわざわする室内はぼろぼろの集会所。業者に頼んで最低限の修理はしてあるけれど、冬は町内会長が早めに来てダルマストーブに火を入れて温かくしてるし、夏は全体の窓を開けている。そんなぼろぼろの集会所にも、慧天の声は通った。子供特有の甲高いそれだったからかもしれない。
慧天のお母さんはこら、と言っているけれど、良いんじゃないか、と声が上がって来た。この数年ご近所を困らせてきた問題だ。しかし嘘? 大人たちは慧天を見ているけれど、慧天は物怖じしない。
「勿論本物を設置するには町内会費を使わなきゃならないけれど、看板だけなら百均で済ませられます。そこまで町内会は貧乏じゃない。こけおどし程度の意味ですけれど、町内会に入っていない人はそれでも分からないからゴミ捨てをやめるでしょう」
「良い意見だね、それは。明日にでも百均に行って来よう」
「なら私が。息子が言い出した事ですから」
赤面している慧天のお母さんは、ぐいっと慧天を肘で突いた。あまり目立ちたくないのだろう。えへへーと笑ってる慧天は、まだ含みがあるようだった。
まだ何か、考えているようだった。
裏道を、持っているようだった。
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