第26話 三人②

 リリアンの問い掛けに、トロスもシグレも少しの間何も答えなかった。

 先に口を開いたのは、トロスだった。


「……まあ、そりゃ思い出しはするよな。昔と比べて、頻度は減ったかもしれねえけどよ……でもやっぱり、ふとしたときに、アイツのことが頭をよぎるんだ」


 それに続くように、シグレが切なげに微笑う。


「……自分も、そうですね。ティアラさんのことは、仮に忘れたいと願ったとしても、忘れることができないだろうと思います」


 リリアンは、「そうだよね……」と頷いた。



「二人とも、ティアラちゃんのことが大好きだったもんね」



 彼女の言葉に、トロスとシグレは一瞬固まり。

 それから、矢継ぎ早に話し始める。


「えっ、はあっ、いや!? な、何言ってんだよお前! いや、そりゃあシグレはそうだったかもしれねえけどよ!」

「ちょ、ちょっと何をおっしゃるのですかトロスさん! お、おやめなさい!」

「おやめなさいって……お前からのティアラに対する好意はバレバレだったわ! どう見ても! ただあの鈍感赤毛が気付いてなかっただけで!」

「ティアラさんにそのような謎のあだ名を付けるのもおやめなさい!」


 わちゃわちゃとしている二人に、リリアンは「んっ、んん?」と首を傾げる。


「わ、わたしは、人間的な好意を抱いてたよね、という意味で言ったんだけど……もしかして二人、何か勘違いしてる……?」


 そう告げたリリアンの頭を、トロスが軽くチョップした。


「うわあっ! こ、攻撃された〜!」

「言い方がややこしすぎるわ!」

「ひゃあ〜……そ、そんなつもりはっ!」

「……申し訳ありませんが、自分もトロスさんと同意見です」

「二人の意見が合うなんて、珍しいなあ……」


 頭をさすりながら言うリリアンに、トロスとシグレははあと溜め息をつく。


「……で、何で急にそんなこと聞いたんだ? 何かあったのか?」

「いやあ……実はわたしも今日、ティアラちゃんのことを思い出してさ。皆もこういうことあるのかなあって気になったの」

「なるほどな。まあ、そりゃあるだろ。だって俺たちは、ティアラと一緒に世界を救ったんだぜ? そんな奴のこと、忘れろっていう方が難しいだろ」

「あはは、確かにそうだねえ。……ティアラちゃん、今、何してるのかなあ……」


 頬杖をつきながら、リリアンは呟くように口にする。

 トロスは腕を組んで笑った。


「どうだろうな。まあ、天国で楽しくやってんじゃないか? 雲の上で『ふかふかですよ〜……』とか言いながら寝てそう」

「ぷっ、トロスくんのティアラちゃんの声真似、面白すぎる! あはははっ」

「『これぞまさに、私の求めていたスローライフですよ〜……すやすや……』」

「あははははっ、待って、やばい! 裏声やばいっ!」

「確かにティアラさん、事あるごとに『いやあ、スローライフを送りたくて堪りませんが……』ってぼやいていましたものね」

「あ、待って待って限界っ! シ、シグレくんの声真似も、面白すぎてっ、あっ、息がっ」


 笑いすぎて過呼吸のようになっているリリアンにつられたように、トロスとシグレも笑い出す。


 暫く笑った後で、三人はティアラとの思い出話に花を咲かせ始めた――――

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