第14話 氷歌の宝石

「……これでよし、と!」

「ふるっふ〜!」


 私とわたあめは、雪だるまの前で頷き合う。


 雪だるまの顔部分には、二個のボタンが付けられている。

 目論見通り、ぱっちりとしていて可愛らしい目になった。

 鼻と口は私の手で描いたものだが、これはこれで味がある気がする。


「うんうん、いい出来栄えじゃあないですか」

「ふふるるふふ!」

「よーし、それじゃあ、そろそろ探しに行きましょうか。当初の目的、氷歌の宝石ミュリーシャートをね!」

「ふるっふ〜!」


 私とわたあめは、並んで歩き出した。

 ちょっとして振り返って、雪だるまに手を振った。


 *・*・


 超高度な探知魔法を使いつつ、ルンフェルエン雪原を移動すること三十分ほど。


「ふるふっ!」


 わたあめが何かに気付いたように、一部分の雪を掘り始める。

 そうしてついに、私たちの前に氷歌の宝石ミュリーシャートが姿を現した。


 氷歌の宝石ミュリーシャートの最大の特徴は、花が咲くかのように地面から放射状に生えていることだ。

 まるで宝石の花――私とわたあめは、暫しうっとりと見入る。

 それから私は魔法を使いつつ、氷歌の宝石ミュリーシャートの表面を傷付けないように採掘を試みる。

 難なく、手中に収めることができた。

 私はポケットに氷歌の宝石ミュリーシャートを仕舞う。


「これを持ち帰れば、依頼の規定量には達しそうですね……多すぎても怪しまれそうですし、これくらいにしておきましょうか」

「ふるふ! ……ふっ、ふるふ〜!?」


 わたあめが大きな声を上げたので、何かと思って隣を見ると――既にそこには、わたあめの姿がなかった。


「ええっ!? あっ、あれれっ!?」


 私は驚きの声を漏らしながら、素早く周囲を確認する。

 すると、空中にわたあめがいることに気付いた。


「ふるふ〜…………!」

「え、あれ……アイシィディバードじゃないですか!?」


 何とわたあめを、げきつよ鳥系魔物のアイシィディバードが掻っ攫おうとしている!

 私は慌てて魔法を唱えて、一気に空中を駆けた。


(油断してました……鳥系魔物ってヤベえくらい目がいいんでしたね、確か……! それにしたって超高度な認知阻害魔法を見破ってくるのは流石すぎますよ〜……)


 そう考えながら、私はアイシィディバードとの距離を詰めていく。


「待ちなさあい! その子はお前のおやつじゃないですよ〜! 私の大事な相棒を返しなさいッ!」

「ふるふる…………」


 わたあめが涙目でこっちを見つめている。は、早く助けなくては……!


 アイシィディバードはちらりと振り向いたかと思うと、私に向けて光線を吐き出した。


「うおおッ! 危ないですがッ!」


 身を捻って何とか避ける。

 髪の端がジュッと言ったので多分一部分焼けた。長髪を下ろしていると戦闘のとき大体こうなるので、昔は一つに纏めていたな……とどうでもいい記憶を思い出す。


「まあ、私が黙ってやられていると思ったら大間違いですよ……そろそろ当たりそうな位置ですね……〈浅い眠りの金縛り・静かなる石像・全てを止める赤色〉ッ!」


 魔法を唱え終わると、アイシィディバードが突然落下していく。

 翼に超高度な石化魔法を掛けてやったのだ。


「ふっ、ふるふ、ふるるるる〜!」

「今助けますッ!」


 私は宙に放り出されたわたあめをキャッチしてから、アイシィディバードが落ちるタイミングで雪をトランポリンのように変質させる。

 ぽよよんと跳ねたアイシィディバードを眺めながら、私はふうと息をついた。

 よほど怖かったようで、わたあめは私の腕の中でぷるぷると震えている。


「ふるふる…………」

「よしよし、もう大丈夫ですからね。ここは危ないですから、さっさとライミルイアに帰りましょうか」

「ふるふ〜…………」


 私は縮こまって本物のわたあめみたいに丸まってしまったわたあめを撫でながら、転移魔法を唱えた。

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