第13話 ルンフェルエン雪原
超高度な転移魔法を使って、私とわたあめはルンフェルエン雪原へとやってきた。
ごうごうと雪が降り、びゅうびゅうと風が吹きすさぶ。でも超高度な温度調節魔法と超高度な風反射魔法を使っているので、私もわたあめもへっちゃらだ。
時折げきつよな魔物がのそのそ歩いているが、超高度な認知阻害魔法を使ったお陰で全く気付かれない。
「ふるふふ〜♪」
わたあめが楽しそうに雪を掘って遊んでいる。可愛すぎる。
「……はっ、いいこと思い付きました!」
「ふるふ?」
「折角雪原に来たんだし、雪だるまつくりたいです!」
「ふるふ……!」
わたあめが尻尾を揺らしている。どうやら賛成してくれているようだ。
という訳で、私たちは雪だるまづくりを始めた。
小さな丸い雪玉を二個つくって、それをころころと動かしていく。私が下の雪玉担当、わたあめが上の雪玉担当だ。
「ああ……何だか今、すごく『スローライフ』を感じてます、私……」
「ふるふ〜」
感慨にふける私の隣で、わたあめが笑っている。
やがて、二つの雪玉が結構な大きさになった。
私は自分がつくった雪玉の上に、わたあめがつくった雪玉をぽんと乗せる。
まだ顔部分をつくっていないが、これだけでもう雪だるま感がすごい……!
「ふるふふっる〜!」
わたあめも嬉しそうに、未完成雪だるまの周りを跳ね回っている。どうやら気に入ってもらえたようだ。
「顔の部分はどうしましょうかね……」
そう言って、私は辺りを見渡す。
存在するのは、とにかく雪、雪、雪。
余り雪だるまの顔部分に使えそうな材料はなさそうだった。
「んー……生成魔法を使って材料を生み出すか、どうするか……」
悩んでいる私のふくらはぎに、わたあめがぽよんとアタックする。
「ん、どうかしましたか、わたあめ?」
「ふるるる……!」
わたあめは焦った様子で、どこかへ走っていく。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ〜……! どうしたんですか、急に!」
「ふるる〜!」
私は不思議に思いながら、わたあめの後を追う。
少しして、わたあめがぴたりと立ち止まって「ふるる……」と声を漏らす。
私は目の前の光景に、思わず息を呑んだ。
――――そこにいたのは、お腹から血を流している一人の冒険者。
薄茶色の髪の、きれいな顔立ちをした青年だった。
「え……だ、大丈夫ですかッ!?」
私は腰を落として、横たわって目を閉じている彼にそう問い掛ける。
……でも、返事はない。
私は恐る恐る、彼の手首に触れる。
少しして、安堵の息をついた。
「よかった……生きてはいるみたいですね……」
「ふるふ……」
恐らく、魔物と交戦して傷を負い、帰ろうとしたものの体力が朽ちて眠ってしまったのだろう。
このまま放っておけば、遠くない未来に命を落としてしまう……私はすぐに、魔法を唱える。
「〈折れた植物の茎・泥の混ざり合った水・その全てを清らかにする祈り〉」
青年のお腹の傷が、みるみるうちに塞がっていく。
私はこくりと頷いた。
「応急処置は、これでよし……ですがここにいると寒さにやられるでしょうし、取り敢えずデカめの医療機関に送っておきましょうか」
「ふるっふ」
私は、転移の魔法を唱えようとする。
そのとき、青年の目が少しだけ開いた。
「う…………だ、誰……?」
「通りすがりの幼女です! お気になさらず!」
「…………何か、お礼を……」
「え、お礼なんていいですよ!?」
「いや……お礼を…………」
「えええ〜……あ、そうだ、そしたらこれ貰います!」
私は青年が着ていたコートのボタンを二つ、魔法でつくった風の刃でぷつりと切る。
「はい、お礼頂きました! ではでは、ご安静に…… 〈夜空の指針・幻の方位磁石・アリティネジ医院〉」
唱え終わると、青年の身体が消え去った。
私は一応遠見の魔法を使って、アリティネジ医院の現在の様子を見てみる。
突如の青年の出現に、医院の人たちがびっくりしたように駆け寄っている。よし、大丈夫そうだ。
私は遠見の魔法を止め、わたあめへと微笑みかけた。
「匂いでわかったんですか? ありがとうございます、わたあめ。君のお陰で、尊い命を救うことができましたよ」
「ふっふっふ!」
わたあめがぴょんと胸に飛び込んでくる。
私は抱きしめて、ふふっと笑った。
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