第12話 冒険者ギルド
冒険者ギルドは、沢山の人で賑わっていた。
この町――ライミルイアの冒険者ギルドに来るのは初めてだが、結構栄えているようだ。
私とわたあめは、受付の方へと歩いていく。
取り敢えず、手が空いていそうな受付嬢さんに話し掛けることにした。
一つに編まれた真っ白の髪と、静謐な灰青色の瞳が印象的な女性だ。
(…………? なーんか既視感あるような……まあ私、勇者な前世で大量の人と出会ってますし、この人ともどこかで会ったことがあるのかもしれませんね)
そんなことを考えながら、私は受付嬢さんへと笑いかける。
忘れてしまいがちだが自分は五歳の幼女なので、不審に思われないように「マルハナ=セグセーミュモード」の喋り方を意識しなくては。
「こんにちは〜、おねえさん!」
「ふるふっ!」
私と、私の頭の上に登ってきたわたあめは、受付嬢さんへと挨拶する。
すると彼女は、どこか引きつった微笑みを浮かべた。
「あ、ああ、こんにちは……だが、ここはお嬢さんのような小さな子が来る場所ではないと思うぞ」
「えっ、ええ〜!?」
「ふるふっ!?」
余りのド正論に、私とわたあめは驚きの声を漏らす。
受付嬢さんは、困ったように話を続けた。
「もしかして、ご両親とはぐれてしまったのか? そうだとしたら、わたしが探すのを手伝うよ」
受付嬢さんの言葉に、私は心の中で頭を抱える。
(くっ、くうう……! メンタルが十八歳の中こういう風に子ども扱いされると、何だかイラッとしてしまう……! で、でも向こうはきっと善意だし、何よりここでキレたらお小遣い稼ぎプランが消えかねない……ここは、幼女の可愛さで押し通すしかないですよ〜!)
私は意を決して、受付嬢さんににこっと笑いかけた。
「ううん! マルハナはね、めいかくないしをもって、ここにきました!」
「ふるふふっ!」
「め、明確な意思を持って……!? お嬢さんは難しい言葉をご存知なんだな……」
(や、ヤベえ……五歳が到底持ち得ない語彙使っちゃいましたよ〜……)
脳内で反省しながら、私は「う、うんっ!」と微笑む。
「マルハナはね、いらいを、こなしにきたんです!」
「ふっふっふ〜」
「い、依頼を……!? 流石にお嬢さんには難しいと思うぞ!?」
「なめてもらっちゃあ、こまります! マルハナのてにかかれば、どんなドラゴンも、いちころよ!」
「ふっふっふ!」
「どんなドラゴンもいちころ……!? 流石にそれは嘘だろう!?」
ギルド受付嬢さんが万歳をしながら驚いている。クール系に見えて意外とノリが良さそうだな、この人。
「まあまあ、おねえさん、いらいをおみせくださいよ! マルハナのてにかかれば、どんないらいも、かいけつよ!」
「ふるふるふ!」
「えええ……いやでも、危険だと思うんだが……」
「いいからいいから、とりあえず、みせてくださいな!」
「ふるっふるる〜」
「うー……まあ、別に見るだけならいいが……」
渋々といった様子で、受付嬢さんは依頼書の束を渡してくれる。
私はそれを受け取ると、パラパラと確認していった。
(んー、簡単な依頼はやはり報酬がしょっぱいですね……今後の理想のスローライフ計画のために、できればお金は大量に持っておきたいところ……でも流石に五歳の幼女がげきつよな魔物を倒して帰ってきたら伝説になってしまいそうですし、どうしたものか……ん?)
私は、一枚の依頼書で手を止める。
わたあめの「ふるる?」という不思議そうな声を聞きながら、私はその依頼にじっくり目を通した。
――――
ルンフェルエン雪原にのみ存在する、世にも美しい薄水色の宝石だ。
それを一定量持って帰ってくれば、なんと……100,000エンエンの報酬が支払われるようだ!
私が目を輝かせていると、受付嬢さんがぎょっとした顔になる。
「お、お嬢さんにその依頼は難しすぎると思うぞ!? ご存知ではないかもしれないが、
その言葉に、私はふふっと笑ってみせる。
「たしかに、マルハナには、むずかしいかも……」
「ふるふう……」
「そ、そうだろう? わかってくれて何よりだ」
「……でもさ、おねえさん?」
「ふっふっふ」
「な、何だ?」
私は受付嬢さんへと、人差し指を立ててみせた。
「かりに、みゅーりしゃーとがなぜかそこらへんにおちていて、それをマルハナがひろってもってきたばあいでも、いらいはたっせいできてますよね?」
「るっるっる」
「ま、まあ、理論上はそうだが……」
目を伏せている受付嬢さんに、私はにかっと笑う。
「それじゃあ、そこらへんにみゅーりしゃーとがおちてないか、さがしてきますっ! マルハナ、がんばるぞおっ!」
「ふるっふ〜!」
「ま、待て、そんな超低確率なっ……!」
私は受付嬢さんに手を振って、冒険者ギルドから出る。
眩しい青空が広がる外にて、私は口角を上げた。
「……なーんてね? さあ、早速ルンフェルエン雪原へ向かうとしますかッ!」
「ふるっふふる〜!」
私は、飛び跳ねたわたあめの小さな前足とハイタッチした。
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