第三章 目指せスローライフ〜野菜と花の種編〜
第10話 マルハナ2とわたあめ2
――――翌日。
美味しすぎるジャムトーストを中心とした朝ご飯を食べ、歯磨きを終えた私は、わたあめをお腹に乗せながらベッドの上で仰向けになっていた。
窓の外からは、淡く鳥の囀りが聞こえてくる。
「さて、今日もスローライフを目指すとしますか……!」
「ふるっふ〜!」
わたあめがお腹の上で跳ねる。少しくすぐったい。
「スローライフといえば、やはり……家庭菜園ッ!」
「ふるふふるふんっ!」
「自分が育てた野菜をサラダにして食べるの、めちゃめちゃ夢ありますが……想像しただけで、シャキシャキですよ〜……」
「ふるふ〜……」
「それから……ガーデニングッ!」
「ふーるふんふっ!」
「自分が育てた花に囲まれながら、日向ぼっこしつつお昼寝……想像しただけで、ぐっすりですよ〜……」
「ふるふ〜……」
私とわたあめは、少しの間目を閉じる。
「この家、割と広い庭があるのに特に野菜とか花とか育ててないっぽいですもんね……勿体なさすぎです! 私の手で、最高の庭をつくってやりますよ〜」
「ふるっふるる!」
「そのためには、種を買わなきゃいけませんね……私、お金とか持ってるんですかね?」
私はわたあめを布団に下ろして、ベッドから立ち上がる。
机に付いている引き出しを開いてみると、二段目の引き出しに目当てのものを発見できた。魔物モモミーピッグをモチーフにした貯金箱のようだ。
私はそれを取り出し、机の上に置いてみる。
やってきたわたあめを肩の上に乗せてから、椅子に座って貯金箱の構造を確認。どうやら、モモミーピッグのお腹の辺りが開くようになっているようだ。
私は貯金箱を手に持って、少し振ってみる。じゃらじゃらという音がして、思わずごくりと唾を飲んだ。
「結構、小銭入ってるみたいですね……もしかすると、五歳にしてはお金持ちなのでは?」
「ふるっふ〜!」
私は期待で胸がいっぱいになりながら、貯金箱をぱかっと開ける。
そして、中に入っていた小銭を全て机の上に出してみた。
――――1エンエン硬貨が、15枚ッ!
「まさかの全部1エンエン硬貨ですが〜!?」
「ふるふ…………」
「……15エンエンで大量の種、買えますかね?」
「ふるふる」
「まあ、私が生きていた頃からヤベえデフレが起きている可能性も否定できませんし……取り敢えず、町に行ってみますか!」
「ふるふっ!?」
驚いたように、わたあめが肩の上で小さく飛び跳ねる。
取り敢えず私は1エンエン硬貨たちをポケットに仕舞って、目を閉じて魔法を唱えた。
「〈存在する二つの影・美しく煌めく二枚の鏡・白色と黒色を持つ二体の獣〉」
目を開くと――そこには、もう一人のマルハナ=セグセーミュと、もう一匹のわたあめがいる。
超高度な分身魔法の応用版だ。
「ふ……ふるふるふ……!?」
わたあめ(本家)が、驚きの鳴き声を漏らしている。
そんな本家わたあめの元へ、わたあめ2が笑顔でぴょんと跳ねた。
「ふるふ〜!」
「ふるふるふ!?」
「ふるふるるっ♪」
「ふるるふふ〜!?」
わたあめ2と本家わたあめが鬼ごっこを始める。
一匹いるだけで可愛いのに、二匹になるとさらに可愛さ倍増だ……!
「あああ……マジ尊すぎですが……」
マルハナ2も、目をきらきらさせながらそう言っている。
流石分身体、考えていることが一緒だ。
やがて本家わたあめが私の頭に、わたあめ2がマルハナ2の頭にぴょんと乗っかる。
私はマルハナ2とわたあめ2に向けて、口を開いた。
「それじゃあ、私たちはちょっと町に行って買い物してくるんで、お留守番お願いしますね!」
「おっけーです、任せてください!」
「ふるっふ!」
「ありがとうございます!」
力強いマルハナ2とわたあめ2からの返事に、私は感謝の言葉を返す。
「〈柔らかな明日・昼下がりの微睡み・全てを包み込む大地〉」
それから魔法を紡いで、頭に乗っている本家わたあめと共に、家の窓を開けてぴょんと飛び降りた。トランポリンのように柔らかくなった地面に、ぽよよんと降り立つ。
「それでは行きましょうか、わたあめ!」
「ふるっふるる〜!」
楽しそうに笑うわたあめの隣で、私は歩き出した。
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