第9話 夕方
――――一人の青年が、夕暮れの中の〈優しい終わりの森〉の中を歩いていた。
歳の頃は二十代前半に見える。深緑色の髪と真紅の瞳の対比的な色合いが印象的だった。
彼はとある光景を目にすると、ぴたりと足を止める。
青年の目の前には、ぐるぐるに絡まったロティランゼ・ドラゴンがいた。
彼は驚いたように目を見張って……それから、口を開く。
「……俺が昔思い付いた、ロティランゼ・ドラゴンの倒し方じゃねえか。世の中には、似たようなことを考える奴がいるんだな……まあ、ちょうどよかった」
そう言いながら、青年は背負っていた大剣を引き抜くと、ロティランゼ・ドラゴンを斬っていく。
真っ赤な血が、地面に降り注ぐ。
ロティランゼ・ドラゴンは少しの間苦悶の咆哮を上げていたが、やがてぐったりと動かなくなった。
青年はふうと息をつくと、大剣を鞘に収める。
「……これで、討伐依頼完了、と」
青年はロティランゼ・ドラゴンの亡骸に背を向けて、再び歩き出す。
「……そういえばティアラにも、この倒し方を教えたことがあったな」
真紅の瞳を少し細めながら、彼は寂しそうに微笑んだ。
「あいつが今も生きてたら、一緒に魔物とバトルしまくる日々を送りたかったな……」
青年の呟きは、風音や唸り声の響く〈優しい終わりの森〉に溶けるようにして、消えていった――――
*・*・
「ふえっくしゅーん!」
「ふるふっ!?」
夕陽が差し込む自室に響いた私の豪快なクシャミに、本日わたしの相棒となったフルッフリューこと「わたあめ」が驚いたように跳ねる。
わたあめが「ふるふふ……?」と言いながら、心配そうに首を傾げた。
「ああ、大丈夫ですよ……ただなんか、背筋がぞぞぞ〜としたといいますか……」
「ふるっふ〜」
わたあめはベッドに座っている私の後ろに回り込むと、「ふっふっふ」と言いながら背中に頬擦りしてくれる。
「心配してくれてるんですね……ううう、わたあめ可愛すぎるう……うちの子が世界一、いや宇宙一……」
「ふるふ〜♪」
わたあめが、嬉しそうに部屋の中を駆け回る。
ちなみにマルティスさんとコハナさんにも、既にわたあめのことは紹介済みだ。
「偶然庭に迷い込んだフルッフリューを気合いでテイムした」という、第一に「〈優しい終わりの森〉にしか生息しないフルッフリューがどうしてアホほど遠くのこの家の庭までやってきたのか問題」、第二に「テイムの魔法を五歳で使えるマルハナ=セグセーミュが余りにも天才すぎる問題」といったツッコみどころが満載な説明をしたのだが、二人から返ってきたのは「流石すぎる、マルハナ……! パパは感無量だ……!」「ママもよ……! そしてフルッフリュー、可愛すぎるわ……!」というリアクションだった。物分かりがいいご両親で大変助かる。
「わたあめ、こっちおいで〜」
「ふるっふふ!」
わたあめが笑顔で、私の胸の中に飛び込んでくる。
私はわたあめを抱きしめながら、ベッドに仰向けで寝転んだ。
ああ……もふもふは、世界を救う……。
そんなことを考えながら、私は心地よい疲労と共に少しだけ眠ることにした。
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