第7話 もふもふご対面
「……さて、マルハナ=セグセーミュが二人いるとマルティスさんとコハナさんが混乱するでしょうし、見つからないようにさっさと移動しちゃいますか」
私は大きく伸びをしてから、魔法を唱える。
「〈夕陽の指針・幻の方位磁石・優しい終わりの森〉」
唱え終わると、私の視界は真っ白に染まった――――
*・*・
段々と、視界を満たしていた白さが失われていき。
私の目の前に広がるのは、立ち並ぶ数多の樹々。
紫色や黒色の葉が、冷たい風に揺られてざわざわと踊る。
灰色の曇り空からは、今にも雨が降り出しそうだった。
私は辺りを見渡してから、こくりと頷く。
「……よし、間違いなく〈優しい終わりの森〉ですね! 行ったことのない場所にも行くことが可能な、超高度な転移魔法を使った甲斐がありましたよ〜」
私は目を閉じて、喜びを噛み締める。
ふと、目の前に広がる〈優しい終わりの森〉から、唸り声のようなものが聞こえてくることに気付いた。
私は腕を組みながら、目を細める。
「何やらげきつよ魔物の気配がしますね……確かにここって、フルッフリューみたいなげきかわ魔物が生息してるのが謎すぎるくらい、ヤベえ魔物が沢山彷徨いてることで有名ですもんね……ま、無駄な戦いは避けていきたいんで、あの魔法を使いますか」
私は、意識を集中させる。
「〈果てなき理由・明日を示す地図・フルッフリュー〉」
そう唱えると、私から一番近い距離にいるフルッフリューの居場所がわかった。
「ふふふ、こうして超高度な探知魔法を使えば、特定の魔物を探すことなど余裕余裕! さあ、しっかりテイムして帰りますよ〜! 待っててくださいね、愛しのもふもふフルッフリュー!」
私は駆け足で、〈優しい終わりの森〉へと踏み入れた――――
*・*・
違う魔物の気配を感じたら少し迂回するのを繰り返しながら、私は目的のフルッフリューへと近付いていく。
「ええと……多分この辺りのはずですが……」
私は走るのをやめて、ゆっくりと歩きながらきょろきょろと辺りを見渡す。
そのとき、一本の樹の後ろから、ほんの少しだけ顔を出してこちらを見つめている魔物の存在に気付いた!
「ハッ!」
思わず人差し指を前に出して、大きな声を上げてしまう。
その瞬間、覗いていた魔物がさっと隠れてしまった。
私は慌てて、ぶんぶんと首を横に振った。
「す、すみません、怪しい者ではないですし、危害を加えるつもりも全くありません! ただ君と、仲良くなりたいだけと言いますか!」
頑張って弁解する私に、魔物の顔がまたちらりと覗く。
ふわふわの真っ白の毛に、つぶらな瞳、ピンと立った耳――間違いなく、フルッフリューだ!
「うわあああ……ヤベえ、可愛すぎますが……」
私の言葉に、フルッフリューが不思議そうに首を傾げる。は、破壊力高え……!
(ええと、確かテイムは魔法を唱えるだけでできますが、そのときに「魔物の身体に手を触れている状態」だと、後々親密度がより上がりやすくなったはず……! どうにかして、近付いてきてほしいところですよ〜)
取り敢えず私は、手招きしてみる。
「ほーら、ちょっとこっちに来てくれませんか〜」
「…………?」
フルッフリューがまた、首を傾げる。
うーむ、意図が余り伝わっていないようだ。
(まあ、そりゃそうですよね……どうしましょうかね、こっちから近付いて不意打ちで触れるのは簡単っちゃ簡単なんですが、折角ならフルッフリューにも心を開いてほしいですし……んー……そうだ、プレゼントとかいいのでは!)
名案を思い付き、私はにやりと笑う。
その表情がよくなかったのか、フルッフリューが徐々に樹の後ろに隠れていこうとする。
「あ、待って、待ってください! 悪い顔をしてたかもしれませんが、ほんとに君と仲良くなりたいだけでして! 信じてくださいッ!」
フルッフリューの動きが止まった。
私は少し安堵しながら、優しい微笑みを意識しつつ話し掛け続ける。
「えーとですね、お近付きの印に、君にプレゼントがあるんですよ〜! 今出しますので、ちょうっと待っててくださいね」
フルッフリューを見つめながら、私は魔法を唱えた。
「〈うららかな日差し・幸せを包む箱・ワンダフリーアケーキ〉」
――――瞬間、私とフルッフリューの間に、ぽわんという音と共にお皿に乗った可愛らしいケーキが現れる。
超高度な生成魔法を使って、大人気使い魔御用達ケーキ屋店の一番人気のケーキ(と、ついでにお皿)を無から生み出してみたのだ。
「…………!」
フルッフリューが樹の陰から身を乗り出して、目を輝かせながらケーキを見据えている。
フルッフリューの視線が私へと移ったので、私は「どうぞどうぞ、食べちゃってください!」と笑い掛ける。
我慢できなくなったのか、フルッフリューはだっと駆け出して、ケーキをもぐもぐ食べ始めた。
口の周りにクリームを付けながら嬉しそうに食べ進める姿は、とっても可愛い。尊すぎる……!
ケーキはすぐになくなって、フルッフリューは尻尾を左右に揺らしながら、「ふるふっ!」と高い声で鳴いた。鳴き声もキュートすぎる……!
「どうですか、美味しかったですか?」
「ふるっふるる〜!」
「あはは、それはよかったです」
「ふるふふっる〜!」
フルッフリューが、私に向かってぴょんと飛び跳ねてくる。
私はそんなげきかわもふもふを、ぎゅっと抱きしめた。
「うひゃああ、もっふもふすぎる……! ふかふかで気持ち良すぎますが〜!?」
「ふるふ! ふるふっふる〜」
「あああ、声近くで聞くとよりかわういい……」
「ふるっふ〜!」
私は、にこにこしているフルッフリューと目を合わせる。
不思議そうに首を傾げたフルッフリューに向けて、私は一つの問いを投げ掛けた。
「その……よければ、私ティアラ……じゃなくてマルハナの、相棒になってくれませんか!」
その言葉に、少しの間私たちの間を静寂が満たし。
それから、
「ふるふ!」
フルッフリューの可愛らしい笑顔が、返ってくる。
「……おっけー、でいいんですか?」
「ふるふふ!」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えますよ〜?」
「ふるっふ〜!」
フルッフリューの力強い頷きに、私は微笑んだ。
それから、テイムの魔法を唱える。
「〈二人を繋ぐ優しい縁〉」
瞬間、フルッフリューと私の身体が黄色の光の粒に包まれ。
それが段々と、消えていく。
テイムが成功したことを悟り、私はフルッフリューをそっと抱きしめた。
「ううう、嬉しすぎますが……不束者ですが、よろしくお願いしますよ〜……」
「ふるふるふ〜」
ああ、マルハナ=セグセーミュとなってから使った魔法の中ではダントツ簡単だったが、この魔法がうまくいったのがダントツ嬉しい……
――――そんな気持ちに、浸っていたとき。
ズシン、ズシンと大きな足音が迫ってきていることに、気付いた。
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