第3話 転生者マルハナ
「――――状況を整理しましょうか」
ようやく一人になれた夜、私は腕を組みながらそう呟く。
誕生日会に出席しつつ、マルティスさん(父親)とコハナさん(母親)からそれとなく色々なことを聞き出しておいたのだ。
ちらりと壁に掛かったカレンダーに目をやると、「魔法暦992年」という言葉が見える。
「私が魔王と戦って死んだのが確か、魔法暦987年の3月末。そして今日は魔法暦992年の4月14日で、私ことマルハナ=セグセーミュの五歳の誕生日。つまりマルハナ=セグセーミュは、魔法暦987年の4月14日生まれ……」
ということは、と私は言う。
「私は死んでから一ヶ月も経たないうちにマルハナ=セグセーミュとして転生し、第二の人生を歩み始めた。そして、五歳の誕生日という節目に、前世の記憶を取り戻した。……こういうことになるんでしょうね」
確かに、聞いたことがあった。
この世界にはごく稀ではあるけれども、何らかの切っ掛けで前世の記憶を取り戻した「転生者」と呼ばれる存在が確認されていると。
「転生者」の語る前世は、かつてこの世界に存在した者から、別世界に存在したと思われる者まで、幅広いということも。
「つまり、私はもうティアラ=リゼルリティじゃあなくて、マルハナ=セグセーミュってことですか……」
言い終えて、私は少しの間目を閉じる。
それから目を開けて――――右腕をばっと突き上げた!
「いやっほおおおおおおおおうッ!」
そう高らかに叫んでから、私はふかふかのベッドへと勢いよくダイブする。
枕を鷲掴みにして抱きしめつつ、ゴロゴロと横回転を繰り返した。
「マジかよ嬉しすぎますが〜!? もう戦いまくる必要も修行しまくる必要もないし、憎まれまくり怪我しまくりの人生でもなくなるってことですよね!? ええええっ……最高ですよ〜……」
余りの嬉しさに、どうしたって笑顔が溢れてしまう。
昔の自分がすごいにこにこしていたら仲間(主にトロス)にドン引きされたかもしれないが、今の私はものすごい可愛い幼女なので問題ないはずだ。多分。きっと。恐らく。
「いやもう、私の前世どう考えてもヤバかったですもん……十歳の頃勇者のお告げ貰ってからは特に……戦闘で何度も死にかけるし実際死んだし……私痛いの嫌いなんですよ〜そもそも血とかグロいからあんま見たくないし……はあ……」
枕に顔を埋めながら、溜め息をつく私。
ですが、と言って枕から顔を上げる。
「既にマルティスさんとコハナさんには確認済み、どうやらあの二人はマルハナ=セグセーミュに『やりたいことをやりながら生きてほしい』と思ってるらしいですし……セグセーミュ家は貴族じゃないっぽいので変なしがらみに巻き込まれることもなさそうですし……つまり、私がこの人生で何をしようと、自由ッ……!」
右手を握りしめながら、私は口角を上げる。
「もうやりたいことは決めてありますよ〜! 前世のいつからかずっと夢だった、『スローライフ』ってのを追い求めてやるんですッ!」
ベッドの上で立ち上がりながら、私はそう宣言する。
余韻に浸るように、少しの間私は目を瞑る。
そこでふと、とある重要な疑問を思い出した。
「……そういえば私、魔法ってまだ使えるんですかね?」
――――魔法。
この世界の人間が使うことのできる、強力な技だ。
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