初期ダンジョンのゴブリンに転生した結果、挑んでくる勇者たちを空気を読まずに返り討ちにしてしまっています

第12話

――キングの記憶――

「いただきっ！！！！！」

「ぐはぁっっ！！！」

背後から忍び寄り、勇者の後頭部めがけて振り下ろされた鎌は、ジャックの狙い通りの場所に命中した。

派手に攻撃を受けた勇者はよろめき、その姿勢を大きく崩される。

「当たったぞキング！あいつやるじゃないか！」

「あ、あぁ…！」

まさか初撃から幸先よく攻撃が当たるとは思ってもいなかった私は、想定外のその光景に驚きを隠せなかった。

どうやらジャックのレベルは、私の想定していたものよりもかなり高いものだったらしい。

「な、なにしやがる！！！」

「うぉっと！！」

しかし、相手は勇者。

奇襲を受けながらもすぐさま体勢を立て直し、自身の持つ剣を鞘から引き抜いて素早く戦闘の準備に移る。

そして初めてジャックと正対し、その姿を見た勇者は、ややイライラを感じさせる口調でこう言った。

「…な、なんだよ、ただのゴブリンかよ…。先制攻撃してくるくらいだから、珍しいレアモンスターだと思ったのに…。ぬか喜びさせやがって…」

「…はぁ？？」

「がっかりさせるくらいなら最初から出てくんなよ…。あぁもう決めた。こいつ一瞬でぶっころしてやろう。そうすりゃ多少はスッキリするだろうさっ！！」

「ぐっ！！！」

その言葉と同時に、勇者は目にもとまらぬ速さでジャックにとの間合いを詰めた。

そのスピードが捕捉できなかったジャックはなすすべもなく、無防備な体制を勇者の前にさらす格好となってしまう。

…というのも、実はジャックがもたらした先制攻撃はあまりダメージを与えられてはいなかったのだった。

それゆえに勇者は素早く反撃に移ることができ、逆にダメージが入ったと確信していたジャックはそれへの対応が遅れてしまう形となってしまったのだった。

「終わりだっ！！！！」

「く、くそっ！！！」

「あぶないっ！！！！」

私は反射的に声を上げると、自らの足を全力で動かし、二人のもとをめがけて駆け出した。

…というのも、私は頭の中で非常に嫌なイメージが浮かんだからだった。

さきほどのジャックの攻撃、ひいき目を抜いて考えても、勇者をノックダウンさせてもおかしくないものだと思っていた。

しかし現実には、ノックダウンさせるどころかむしろ相手の神経を逆なでするほど、ほとんどダメージは通っていなかった。

それはつまり、我々のダメージの認識と向こうのダメージの認識とでは、大きな乖離（かいり）があるということを意味している可能性が高い。

…ゆえに勇者のこの攻撃がジャックに当たってしまったなら、おそらく一撃だけで致命傷になりうるものではないかと私は思ったのだった。

「どけジャック！！」

「キ、キングっ！」

「く、くそっ！もう一匹わいてきやがった！！」

私は手製の短剣を勇者の首もとめがけて突き上げたものの、すでに警戒心を高めていた勇者は私の攻撃を見切り、その攻撃を難なくかわして見せる。

しかしそのおかげで、勇者の攻撃がジャックに命中することを防ぐことができた。

「な、なんだよキング！こいつは俺の相手だ！邪魔するなよ！」

私が乱入したことが気に入らないのか、不服そうな表情を浮かべて抗議してくるジャック。

私はそんな彼の肩を抱き、勇者に聞こえない程度の声でこう耳打ちした。

「いいかよく聞けジャック。我々がこの武器で敵を倒すには、相当な量の攻撃を当てなければならないかもしれない。しかし敵の攻撃はその反対に、一度受けるだけで殺されかねない。…分かるだろう？もはや1対1にこだわる余裕などない。生き残りたいなら心してかかれ」

「う、うそ…だろ…っ！？」

私の言葉を聞いたジャックは、それはそれは目の前の現実が信じられないといった表情を浮かべていた。

私だって内心では同じ思いを抱いているわけだが、今の我々には現実を悲観するだけの余裕は全くなかった。

「一匹が二匹になっても同じこと！！ゴブリンのくせに、つるんだら俺に勝てるとでも思ってるのかよ！！生意気なっ！！！」

「くるぞ！！！」

「あ、あぁ！！」

勇者の持つ刀剣の動きを封じるべく、自前の武器を駆使して応戦する。

しかし、武器の性能差は見るからに明らかで、とても相手の攻撃をいなせるほどの頑丈さや防御力はなく、絶え間なく放たれる勇者の攻撃を前に、ひたすら全力で回避を行うのが精一杯だった。

「こ、このままじゃいずれやられるぞ！どうするキング！！」

「いいからひきつけろ！！」

「だ、だからそれにも限界が！」

「弱小のゴブリンのくせになにをごちゃごちゃ言ってやがる！悪あがきしてないで、大人しくとっとと死にやがれ！！」

「(…よし、かかった！！！)」

ちょこまかと逃げ回るジャックと私を前に、イライラを隠せない勇者。

そんな風にして冷静さを欠く瞬間を、私は待っていた。

「もらった！！！！」

シュバッ！！！！

「ぎゃはぁぁっ！！！！」

勇者が背後に隙を見せた一瞬を突き、それまで岩場の陰に隠れていたファンテがさっそうと現れ、勇者の腹部めがけて重い一撃を食らわせる。

その攻撃はクリティカルに命中した様子で、勇者は先ほどまで以上にもだえ苦しみ、嗚咽の声を漏らしていた。

「こ、こいつら……どこまでもうっとうしい真似を…！！！！」

そのダメージの程度から推測して、おそらくもう一撃を加えられればこの勇者を倒すことができる。

私はそう確信し、二人の事をこぶしにかかった。

「よし、いけるぞ二人とも…。我々だけで勇者に勝つんだ」

「3人がかりで1人だけってのが納得いかないが…」

「とどめの一撃は俺に任せろ…。二人はこれまで通りあいつの動きを…」

ファンテがそこまで言葉を発した時、どうやら勇者がその雰囲気をこれまでと変え、こう言葉を発した。

「ゲージを無駄遣いしたくなかったから、素手だけで倒すつもりだったが…。これ以上時間をかけてもめんどくさい、一思いにスキルで殺してやる…！！」

”スキル”というものが何を意味するのか分からない私たちには、どう対応するべきなのかがわからない。

「な、なにをするつもりだ！？」

「わ、分からない！見たことがない！」

「いいから備えろ！当たったら即ゲームオーバーだぞ！！」

あたりの空気が緊張に包まれる中、勇者は自身の刀剣の剣先をこちらに向けて構え、低い口調でこう唱えた。

「剣舞の弾丸（トリニティショット）！！！」

「「っ！！！」」

勇者がそう唱えた瞬間、その剣先から光の弾丸が高速で飛び出し、私の頭をめがけて突き進んでくるのが見えた。

「(こ、これは……)」

…そのあまりに現実離れした技を前にして、私には周りの全てがスローモーションのように感じられ、これが走馬灯なのかと、私は自分の最後を悟った…。

しかしその時。

「かはぁっ！！！」

「っ！！！！」

…私の目の前には、私をかばってその攻撃を体に受けたファンテの姿が目に入った…。