第11話
――キングの記憶――
このダンジョンに湧き出てくるゴブリンたちを、勇者に狩られる前に自分たちが狩っていく。
そうすることで奴らに経験値を渡すことを阻止しつつ、自分たちのレベルを着実に上げていくことができる。
…同族を切り捨てる非道な作戦であると言われればそれまでだが、私たち3人はこの計画に、この世界におけるゴブリンの未来を変えうる可能性があることを確信していた。
「…これは我々ゴブリンにとって、前代未聞の戦いとなるだろう。…改めて聞くが、お前たち本当にこれをやるだけの覚悟はあるか?」
「当たり前だ。こんなところでしり込みするためにお前に協力したわけじゃないぜ?」
「同感だ。俺たちがこの世界のパワーバランスを崩すことができたなら、俺たちの経験値となったゴブリンたちだっていずれ分かってくれるだろう。ここで大人しくしていたってどうせ勇者に消されるのなら、どう考えたってゴブリンの未来の
二人もまた私と同じ信念を抱き、計画を受け入れてくれた。
その自信のもとに我々は同族のゴブリンを狩り倒していき、少しずつ自分たちのレベルを上げていった。
もちろん、その途中で勇者に見つかって自分自身が倒されてしまっては何にもならないため、勇者たちとの会敵を防ぐことに関しては最大限の注意を払っていた。
そんな毎日を送っていたある日の事、洞窟の中で雑談を行う二人の勇者の姿が目に入った。
私は奴らに気づかれないようひっそり後ろにつけると、その会話の内容に注目した。
「…なぁ、なんだか最近ゴブリンの数が少ないとは思わないか?」
「言われてみれば少ない気もするが、別に大した問題じゃないだろう?弱小ゴブリンの数がちょっと増えようがちょっと減ろうが、俺たちには何の関係もないさ」
「それは否定しないけど…。けど、もしも、もしもだぞ?ここのゴブリンたちが束になってなにか考えているんだとしたら、なんだか不気味じゃないか…?」
「ククク、お前そんなこと考えてたのかよ。それこそ望むところじゃないか。最弱ゴブリンなんていくらでも束になってかかってこいってんだ。全員まとめて返り討ちにしてくれるぜ!たんまり経験値もまとめて入って、お互いウィンウィンじゃないか」
「気楽なやつだなぁ…。まぁ同感ではあるんだけど」
「だろ??」
…なるほど、我々はどこまでもなめられているらしい。
ゴブリンの数が減少していることを多少は不審がっているらしいが、それでも
「(…いいだろう、いずれ必ずその言葉をそのままお前たちにお返ししてやろうじゃないか)」
「ぐっはぁ!!!」
「くっせぇええぇぇ!!!なんじゃこりゃ!!!」
私はそのまま二人の勇者の元からゆっくりと離れつつ、その中で手製の異臭弾を二人のもとめがけて投げつけてやったのだった。
――――
その勇者たちと離れた後、私はジャックとファンテの二人を集めて今一度作戦会議を開くこととした。
私がさきほど聞いた勇者たちの会話をありのまま二人に告げたところ、二人は各々こう言葉を返してきた。
「けっ。勇者め、どこまでもなめた真似を…」
「まぁいいじゃないか。それだけ調子に乗っている奴らをこの手で撃破してやった時の爽快感たるや、きっとすさまじいものだろうからな♪」
「それはそうだろうが…。やれやれ、一体それを味わえるのはいつになるのやら…」
それはいつになるのか。
ファンテの発したその言葉に、私はこう反応した。
「…なんなら、そろそろ仕掛けてみるか?」
真剣な口調でそう告げた私の表情を見て、二人もまたその表情を真剣なものとする。
そんな彼らの姿を見て、私は表情をそのままにしてこう言葉を続けた。
「我々3人は計画した通り、それぞれ何体ものゴブリンを倒し続けた。それにより、もう十分なほどに経験値を得ることができた。一方で勇者連中は、得られるはずの経験値が得られずにうずうずし、相当なストレスをため込んでいることだろう。ゆえに今こそが、仕掛けるにはうってつけのタイミングだとは思わないか?」
あえて二人を煽るように言葉を発した私。
それに対する二人の回答など、もはや聞くまでもなかった。
――――
自分たちの力で勇者を倒すと決意し、勇者の訪れを待った我々3人。
暗い洞窟の中で勇者を待ち伏せする我々の脳内は大いに浮かれ、飛び上がりたいほどの興奮を感じていた。
「3人のパーティーが来てくれるのが理想だよな?俺たちがそれぞれ一人ずつ勇者を倒せば、一気に3人の勇者が倒れることになる。自分たちが初期ダンジョンだの言って馬鹿にしていたゴブリンたちに3タテされるなんて、相当愉快なストーリーになると思うぜ?」
「慌て惑う勇者連中の顔が今から楽しみだな♪」
「おい、いくらこちらに有利な条件だからって、あんまり油断するなよ?」
「分かってる分かって……っと、どうやらお出ましみたいだぜ…?」
岩場の陰に隠れて様子をうかがう我々の前に、一人の勇者が姿を現した。
…3人抜きを期待していたらしいジャックは、現れたのが1人であることにやや落胆した様子…。
「なんだよ、一人かよ…。まぁいい、最初は俺が行かせてもらうぜ!」
「お、おい!!」
「止めたって聞かないさキング、あいつはずっとああなんだから」
「ったく……」
私の制止も聞かず、ジャックはいの一番に勇者の背後めがけて突き進む。
そしてそのまま
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