第8話
「やれ!」
リーダーゴブリンの掛け声と同時に、俺たちの周囲に陣取っていたゴブリンたちが一斉に駆け出した。
俺はすかさず
「なっ!?」
「目、目がっ!?」
「何も見えない…!?」
ただでさえ光の少ない洞窟の中であるため、これくらいの砂の量でも十分なくらいに敵から目を奪うことができる。
俺はその中に紛れ、とりあえず数体のゴブリンに刀剣の剣先をくらわせてやり、あえて大きな悲鳴を上げさせる。
「ぐああぁぁ!!!」
「ぎがあぁぁぁ!!!」
…その断末魔は他のゴブリンたちの恐怖となり、刀剣以上の鋭さを持つ武器となる。
「だ、誰かやられたぞ!!」
「ど、どうなってる!!何も見えない!!」
「い、生き残ってるのはだれだ!返事しろ!!」
向こうは本能的な恐怖心から大きな声でそう言葉を発しているのだろうが、その大きな声に導かれるように俺は黒煙をかき分けてその中を進み、さらに次のゴブリンを倒していく。
「あがっ!!!!」
「どあっ!!!」
「し、しっかりしろ!!相手はたったの3体しかいないんだぞ!!それがどうしてここまで良いようにされるんだ!!お前たちは恥ずかしくはないのか!!」
その声は他でもない、あのリーダーゴブリンの声だった。
…その声の聞こえてきた場所から推測して、あいつは部下だけを戦わせて自分自身は高みの見物を決め込んでいるらしい。
まったくどの口がそんなことを言えるのかねぇ…。
「(…さぁ、残りのゴブリンたちを片付けるとしますか…)」
一匹、また一匹とゴブリンを仕留めていく俺。
…しかしその時、黒煙の中にまぎれてたった一匹だけフォーリットの間近まで迫るゴブリンがいたことを俺は見逃していた。
「…レアモンスター、もらった!!!!」
そのゴブリンは背後からフォーリットめがけてとびかかり、その体を仕留めようとしていた。
…しかしそんなゴブリンのさらに背後から別のゴブリンが現れ、その思惑を粉砕した。
「ぐはっ!!!だ、誰だ!!」
「おいおいおい、いきなり背後から盗みをはたらこうなんて、卑怯者のやることだぜ?次はもっともまともなゴブリンに生まれ変わるんだな!あばよ!!」
「ひぎゅあぁっ!!!」
…こちらにも、一体どの口がそんなことを言うのかと思わせられるゴブリンがいた…。
「ラーク、思ったよりはやるときはやる」
「おい、守ってやったのにもっと他に言いようはないのかよ…」
ラークが一匹のゴブリンを背後から仕留めたことで、残る相手はリーダーゴブリン一匹のみとなる。
「…ま、まさかこんなことが…!し、仕方ない…ここは一度撤退してキングの指示を…!」
「なんだ、逃げるのかよ?命が惜しいのは一体どっちだって?」
「うるさい!!今回の事はいずれ必ず清算してもらうからな!!!」
…時間とともに黒煙が晴れていき、自らの率いる仲間たちが全滅したことを悟ったらしいリーダーゴブリンは、そう捨て台詞を吐き、この場から逃げ出すように消え去っていった。
「けっ。俺たちの実力を見誤ったのが運の尽きだったな。俺とツカサがそろったなら絶対無敵だというのに、どこまでも身の程知らずな連中よ」
「ラーク、最初は降参してたくせに」
「う……」
相変わらず無表情でとげとげしい口調のフォーリットの言葉。
…彼女はついさっきまで危ない状況ではあったはずなのだが、にもかかわらずここまで冷静でいられるという事は、意外に図太い神経を持っているのかもしれない…。
「あぁそういえば、一体だけ黒煙をもろともしなかった奴がいたよな?あれはどういうことだ?」
「そんなもん簡単な話だ。ほれ」
「こ、これは…」
そう言いながらラークが俺に見せてきたのは、いわゆる”ゴーグル”だった。
「あいつはこのゴーグルを装備していたから一直線にフォーマットを狙えたわけだな。多分これはこのダンジョンに来た勇者が落としていったものだろう。勇者からすれば何でもない安い品なんだろうが、ここではそんな品の一つ一つが大きな価値を持ち、おそらくは地位の高さも裏付ける。…あいつは拾ったこのゴーグルで、この洞窟の中で一発逆転したかったのかもなぁ…」
「なるほど、そういうことか」
裕福な国から貧しい国に遊びに来た旅行客が落としたものは、裕福な国からすれば大した価値を持たないものでも、貧しい国からすれば大きな価値を持つものであったりする。
ここではそれに似たことが起きているという事なのだろう。
「それでツカサ、一つ確認したいことがあるんだが」
ラークは真剣な表情でそう言いながら俺に向き合うと、こう言葉を続けた。
「お前、相手のリーダーだけを逃がしたのはわざとなのか?あいつ相手に戦いをしり込みしたとは思えないが?」
「あぁ、そうだとも。間違いなくあいつはこれから”キング”に泣きつきに行く。なら俺たちはあいつに案内してもらえば、キングの所まで行けるってわけだ。自分たちで探すよりもはるかに楽だろう?」
「なんだよ、お前キングに会いたいのか?やっぱり仲間になりたいのか?」
「フォーリットを捕らえるように言ったのはキングなんだろ?ってことはキングはフォーリットの何かを知っているってことだ。なら教えてもらいに行こうじゃないか」
俺はそう言いながら、自然にフォーリットの方に視線を移す。
すると彼女は自身の首を縦に振り、俺の言葉に答えてくれた。
「はぁ…。こいつが世界をひっくり返すことにつながるのかねぇ…」
…そんな俺たちのやり取りを見て、やれやれといった表情を浮かべながらそう言葉を発するラーク。
俺たちはひとまずあのゴブリンの後を追い、このダンジョンのヒエラルキーの頂点に立つらしい”キング”なる男に会いに行くことに決めたのだった。
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